RECORD

Eno.576 ELMERの記録

回想/氷鏡

「……シャチ。」
薄ら暗い整備場で、小さくその名を呼ぶ。氷で出来た鏡――氷鏡が現れ、その鏡面越しに小さな海竜が姿を現した。

『戦闘時以外で、君がボクが呼ぶのは珍しいね。何かあった?』
「いや何も、知り合いに会うとアレだが、居ないって分かるとそれはそれで寂しくてね。ちょっと話し相手になれよ」
『……一応ボクは君だよ?ただの自問自答じゃない?』
「はは、そうかも。でも俺とお前は、性格も、生い立ちも、価値観も違う。他人だろ?」
『…他だね』
「そ、だから付き合ってくれ」

ここに来て色んな情報がなだれ込んでくる。酒場に行けば明るい話、綺麗な話、たまにしょうもない話。
アリーナに行けば戦い方の話、武器の使い方、戦法の話……
整備場にいれば、来たやつから霊薬の情報とかそいつ自身の話。

「……あの少年、どう思う?」
『君が言ったとおり、センスはいい。だけどまだ子供で、読み合いは下手かな』
「かもな。でもあれは強くなる。獣人の形質も混ざってるっぽいからな」
『まずは彼自身の把握からじゃない?どう見ても自分を見つめ直すのが先だよ、彼』
「名前聞きそびれたなぁ、もっかい会えないかな……ずっと噛み付いてきてくれないかな…」
『面白いから?』
「いや、懐かしいから」

どことなく、昔の自分と彼と重ねてしまう。普段は強く張って、それが瓦解すると焦ってしまう…おちょくられたって分かると感情的になって、なんだが無理やり生き急いでいる感じ。

「ほっとけないのさ、愛おしく見えてきた」
『うげ…クロードが言うと似合わないよ』
「そうか?子供の面倒見はユコにも太鼓判押されたんだけど」
『話はそれだけ?ボク眠いから寝ていい?』
「ああいいぜ。ありがとよ」

鏡の奥の竜は『じゃあね』とだけ呟いて、鏡ごと霧散する。

獣人は小さく息を吐き、明日は何をしようか思いながら微睡んでいった。