RECORD

Eno.38 エヴラール・ラギエの記録

Report_01 無題

 
 主は僕に常々、“強くありなさい”と教えた。

 僕は決して多くを持つ者ではない。
 主に救われた後、今日まで多くを教えられて育ってきたが、逆説的にはそれだけと言われても過言ではない人生だ。
 親もなく、拾われるまでの過去もない。特筆すべき才を持っていたわけでもないし、明確な将来が用意されているわけでもない。
 主の教えに従い、隣に立てるだけの価値を得るために十数年間を費やしてきた。
 ……ただそれだけだ。

 僕自身は全く以ってそれで構わないのだが、周囲はそうもいかない。
 彼らは勝手に期待をし、勝手に落胆する。
 ある者は僕を操り人形だと言い、ある者は僕が洗脳されていると言う。
 自分勝手な言説を跳ね除けるためにも、強さは必要なのだという。
 そう語る主の目は、研ぎ澄まされたように冷徹だったのを覚えている。

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「──報告。現地に到着しました。
 気候は良好。現地での意思疎通にも難はありませんでした。現状は活動条件を満たしています」



「──それはなにより。体の調子はいかがですか?」



「問題ありません。ただ……一部魔術が常時展開されているからでしょうか。
 僅かにズレているような……妙な感覚があります」



「常人であれば気づかない程度の些細なものでしょうが……貴方はどうも敏感ですからね、
 ゲートを潜った影響もあるかもしれません。いずれにせよ、無理はしないように。
 何かあれば報告を上げなさい。私も暫く外回り・・・はしませんから、目を通すのに時間はかからないはずです」



「ありがとうございます。ではまた後ほど、まとめて報告を上げさせていただきます」



「ええ。楽しみにしています。
 それでは──良い旅を、エヴラール」