RECORD

Eno.228 無名の闘技者の記録

来訪の前

その異世界の門戸が開かれたときに。
向けられた水を、己は最初は断ったのだが。

せっかくだだの、戦闘のための戦闘を他に好みそうなのがいないだの、休暇をとれだの気晴らしになるだの。

『――およそ、誰もきみを知らない。
 誰もがきみを一介無名の闘士として見る。
 行きずりの対戦相手として、矛を向けるだろう』

他にも、最終的には囲まれて寄ってたかって、やいのやいの。
渋る己の味方はいなかった。面倒な応酬がいいかげん面倒になって、最終的に了承した。

……正直なところ。
訪れた世界の空気は、闘技場の熱気は、嫌いなものではなかったのだ。

精々愉しもう、と。
彼はそのように決め込んだ。