RECORD

Eno.576 ELMERの記録

回想/ ゼノ あるいは ゼロ

『おい』
「ん」

整備場の暗闇から赤い瞳が光る。この赤い光は俺にしか見えないし、そこから現れる竜には、俺しか触れられない。

『随分呑気なのだな。おれはもう飽きた。次の戦いを』
「バカ言うな。俺の体力も鑑みて言ってくれ……」

ドボドボと黒い液が滴り落ちる。黒く長い首が伸び、逆さまのまま俺の目をのぞき込む。

『そんなだから、ロゥにも負けるのだ』
「ロゥはもういないよ。だから、負けたままだ」
『だろうな。二度と勝つことは無い』
「それでも、お前は俺に従ってくれるんだろ?」
『それが奴の願いだ。奴の竜として、願いは守る』

コイツらは源星の竜ワイヴァーンと呼ばれる、竜のなり損ない。不死獣の中でも、俺とロゥの2匹以外で観測されてないそうだ。

『これからどうする?』
「しばらくは遊びながら情報集めだよ。人助けもしたいしね」
『また偽善を重ねるか』
「偽善でも、助けることに変わりはないよ」
『その救いが不要としてもか?』
「俺の目の前では誰も死なせないってだけだよ」
『…くだらんな。ヒトは直ぐに死ぬ。勝手に価値観を決め、勝手に争い、滅んでいく。そんなものだろう?』
「それが好きなんだろ?お前」

黒き竜は喉まで裂ける口を大きく開けてニタニタと笑った。

『ああ、ああそうだ。それが好きだ。だからお前も…いや、お前はそうなるな。お前のままでいろ』
「わがままだな。分かったよ」

今ここにいるコイツ、ゼノは…ココロだけの存在だ。体を、ロゥを失い、俺に託された一匹の竜。
ロゥは言った。竜は死なない。滅ぶ事がないって。
つまり、体も死なないはずなんだ。だがここには、ココロしかない。

コイツの体は一体どこに……?