RECORD

Eno.34 シャルティオの記録

【0-8 旅立ちは初雪と共に】


【0-8 旅立ちは初雪と共に】

──視点:フェンドリーゼ

  ◇

 それは、12月の中旬のことだった。
 その頃になれば紅葉は散り、
 冬の気配の訪れを感じられるようになる。

「…………よし、と」

 そんな中、フェンドリーゼはひとり、旅支度をしていた。
 暖かい衣服、いつもの双剣、
 大きな鞄には沢山のものを詰めて。

 足りないものはないだろうか、
 何度も確認するその顔に、
 いつもの無邪気な雰囲気はなかった。
 そこへ。

「……フェン様」

 部屋にノックの音。声は馴染みのある従者だ。
 どーぞと返事すれば、キィランが姿を現した。

「そろそろ、発たれるのですか?」
「そのつもり。これからは雪が降る季節になるから、
 その前にこの国から去っておきたくてねー。
 冬のうちに出来るだけ暗躍しておくよ!」

「…………私は」
「前も言ったけど……。
 きっとこれから色々と起こるから、
 キィルはシャルの隣にいてあげてね!
 “今の時点では”俺は君の従者の任を解いてないから、
 これは主君としての命令です」
「……御意」

 頷くキィランに、フェンドリーゼはにこやかに笑う。

「君とシャル以外に、
 俺が心から信頼している人はいないんだから!
 だからかわいいシャルを任せたよ! さて」

 旅支度は完全に整えた。
 フェンドリーゼは立ち上がる。

「これは命令じゃなくて、俺からのお願い、だよ!
 ……良ければ門まで、お見送り、来てくれる?」
「かしこまりました、フェン様」

 従者を連れて、フェンドリーゼは外へ。

  ◇

 城の外と中を分ける大扉を開ければ、
 空には雲が掛かり、
 今にも雪が降りそうな模様。そんな中を、

「じゃ、行ってくる!」

 陽気に、フェンドリーゼは出て行った。
 キィラン以外に、旅立ちのことは告げないで。

「……行ってらっしゃいませ、我があるじ」

 見送る大好きな従者の声を背に、
 フェンドリーゼはどんどん遠ざかっていく。

 12月の21日、自分の誕生日までには
 絶対に戻れないだろう、理解している。
 26歳の誕生日は、きっときっとひとりぼっちだ。

──それでも。成し遂げたいことが、ある。

 冬。かの帝国さえも身を潜め、活動を休止する季節。
 各国の国境への警備が緩くなる季節。
 このタイミングでしか、出来ないことがありました。

 風の噂で知っているんだ、
 帝国に居ながら戦争に反対を続けるとある人物のこと。
 まずはその人物に接触を、その次は──。

 思考を巡らせるフェンドリーゼの
 帽子にひらり、初雪が舞い降りた。

 シャルティオが知らない裏側で、密かに、
 けれど確かに、何かが動き出そうとしていた。