RECORD

Eno.253 クァリの記録

ナルヴェセラ


レバーアクションライフル。
武骨で長年使い込まれた雰囲気があるが、パーツの幾つかは真新しいもので埋められている。







閑古鳥さえ寄り付かない、埃臭い骨董屋。
今カウンターの上にあるのは、装飾された板にボルトで固定された銃だった。最早武器としての役目を終え、壁飾りとして売られていた物。

ただでさえ気難しそうな口元を更に訝しげに歪め、年老いた店主は商品から客の方へ視線を上げる。

おかしなことに、客は耳長種エルフだった。否、耳長であるだけなら今日日珍しいものではない。数こそ他種には遠く及ばないが、長命ゆえの知識量と自然魔法への理解から、何処の町の耳長種も人々に頼られ慕われる存在だ。王都では高位の役職に就くものも多い。

その耳長種は灰色づくめだったのだ。服装だけでなく、肌や髪まで灰を被ったような色をしている。店主の男は一層顔を険しくし、何度も頭から足下まで視線を巡らせたが、やはり目の錯覚ではない。

一方の耳長は、気まずそうに錆びた鉄色の瞳を泳がせ、カウンターに一枚の小さな金貨を置いた。

「えっと……旧式の金貨しかないんだけど、足りるかな」

店主は相変わらずの面持ちで金貨を手に取る。眼鏡を掛け直し、眇め見た。

耳長種特有の意匠。人間ヒューマンの職人がどう足掻いても再現できない魔法刻印。店主は息を飲む。鍍金でも贋作でもない、間違いなく本物だ。

禿げた頭でゆっくりと頷くと、商品代の二十倍にもなる釣り銭を用意する為、席を立つ。本来両替のサービスはないのだが、骨董品の買取という扱いで良いだろうと考えた。バックヤードへのそのそと引っ込む店主の視界の端に、取引の成立を喜ぶ耳長の顔が映った。

しかしあれは何者だろうかと、勘定しながら骨董屋は思考する。この金貨を持っていたのだ、正統な耳長種の関係であることは間違いない。盗品も有り得るか。超常の刻印により、邪な者に耳長の貨幣は触れることすらできないとも聞くが。此処でぼったくろうとすれば、何か悪いことが起こるだろうか。しかしプロ意識と矜持で食ってきたこの店主は、そんな馬鹿げた事を実行など、当然しない。

束になった紙幣と幾らかの硬貨。すっかり重くなった正当な対価を手に、彼はカウンターへと戻り──驚愕した。

「…………」

リサイクル品の壁飾りと、蒐集者垂涎の金貨とを交換して。

釣りも貰わず、灰色の耳長は姿を消していた。