RECORD

Eno.48 Siana Lanusの記録

◇10

その時はお前の首をもらう、と言われて
それに対する反発が浮かばなかった。
思い当たる顔が何人もいたから、正直取られると困るとは思ったが
命を脅かされることへの恐怖というのだろうか、それが、ひどく薄い気がした。
畏怖はあったが、その冷たい刃が此方に向くのを、さほど嫌に思わないというか。

忌避感が薄い事自体を、恐ろしいと思った。

私は、自分で思っているよりまずい状態なのかもしれない。
それに対して危機感を抱かないのも、また。


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なんだか頭がはたらかない。
体調が悪いのだろうか、……このまま眠ってしまおう。

そう思って目を閉じた。心臓の音が煩かった。

私は、何がしたいんだ。
前に進みたい?それは間違いない。
立ち止まりたい?それも間違いない。
泥を濯ぎたい?それも間違いない。
泥を集めたい?それも間違いない。
誰も傷付けたくない?それも間違いない。
誰にも気を遣わせたくない?それも間違いない。
独りになりたくない?それも間違いない。
いっそ何も要らなくなりたい、それも間違いない。

…………考えるのはやめておこう 今は、







進みたいわけがないだろ、
進んだってもう意味が無いんだ。

「うるさい、」

川は海まで拓かなかった、意志は大海を望めなかった。
そうしたら救われるはずだったのに、そうならなかった。
救われなかった。
救わない教えに意味はあるのか?あんなに信じて己を高めていたのに、仲間たちだって、

「……うるさい」

もう立ち止まったっていいだろ、誰も責めやしない。
私たちの仲間たちだって、強くは責められまい。
沈んだらもう誰も責めることすらできないだろう。
そうなったらもう己を誹るのは己だけだ。
あとはどうせ全て時間が洗い流してくれる。

「   」

何を理解したってもはや意味もないだろ。泥の中にあるのは深い悲しみと憎悪ばかりだ。
そんなもの漁ったところでなにも見いだせやしない。ただただ傷を抉る行為。
傷口にどれだけ塩を塗ったって傷口は治りもしない。
傷を抉るのはやめて忘れなきゃ、前に進むにも進めない。
もうやめろ、全部捨てろ、全部忘れろ、
傷だらけの足で歩き続けたところで膝を折るだけだ。
そうなりたいから護られたくないだけなくせに。
壊れてしまいたいから無理をするだけなくせに。

虚勢を張って強く見せるのはやめればいい、
空虚な器をかわいがるのはもうやめればいい、
聖人のふりしてひとをかわいがるのもやめればいい、
愛されているのは所詮過去の幻影だ。
全部投げ出して沈んでしまえ。そうすれば望むものはひとつは手に入る。
苦しみに真面目に取り合う必要なんて

「弱音ごときが、あたしに指図するなよ」















気付いたら手にはダガーが握られていて、右手が血塗れだった。
大した痛みはないが、これはよくない。
毒のような思考は止まったがどちらが毒だ?、自傷に走るのはあまりにもよくない。

ふらと、乱戦に少しだけ。
巻き戻しですべてを隠してしまおう。
やはり、強くならないと。弱みなど晒している場合では無い。

自己対話は難航している。
自分を、見失っている。






「──こんなんで立ち止まってる場合じゃねえだろ」