RECORD

Eno.563 一つ目の蜻蛉の記録

薄翅:Ⅲ

食堂で食べた和風ジャンクフード。海を見ながら飲んだレモネードとスムージー。ラウンジで開かれた、甘く優雅なお茶会。応援席の熱気の中で食べた、コーラにポップコーン、甘く輝くチュロス。

そのどれもが煌びやかで、香りと味とで舌を楽しませてくれた。ひとの手でつくられた食事。母の手料理も食べたことはあるけれど、【感覚補正】と呼ばれるVR技術革命が起こってから、リアルでの調理や食事は文明から趣味となって、食材や調理器具も手に入りにくくなったという。

イミテーションでない生の食材。なにかの動物の、本物の肉。

でも、その美味しさは、他の闘士たちとのコミュニケーションがあったからだ。彼らは皆、闘技試合の中でも外でも生き生きとして、見知らぬ僕にも声をかけてくれる。それが当たり前のように、彼らは“自然”だ。

自然。

僕の世界と時代では、【自然派】と呼ばれる、バーチャルを可能な限り利用しない派閥の人間もいるけど。
その人々よりも、このフラウィウスという場所の世界の者たちは多様でありながら、自由で自然だ、と思う。
人間だけじゃない、機械や動物やよくわからない姿形の者もいる。そこまではVRの世界と同じだけど、VRの世界の者たちは、あくまで本当の姿が人間で。でもこの世界の闘士たちは、皆、嘘をついてはいないと思っている。

僕も、可能なら嘘はつきたくはない。
だけれど、ゲームをしている最中に来た、なんて言うのは失礼なことだ。巻き戻るとはいえ、命をかけて闘っている者たちに。

この闘技場で求めるものをずっと考えていた。
僕は知りたい。真実を。
僕の立つこの地面が、本物なのかを。