RECORD

Eno.465 ラガーの記録

会話:宿屋夫婦の息子(前編)

ええ?死にかけたことー?山ほどあるけど。
そりゃそうだろ、傭兵だもん。すっごい強いとかすっごい運が良いとかでもない限り、怪我はするし死にそうになることもあるって。

そんな話聞きたいのか?気乗りしないなー、だってアンタそういうの話したら辛そうにするじゃん。別に俺は悲しくないし慰めてほしいわけじゃないし、アンタが苦しそうな顔する方が嫌だもん。

んえぇ……分かった、分かったよー。それなら3つくらいなー。俺がすんごいしんどかったなってすぐ浮かんだのが3つだったから。


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1つ目は母ちゃん死んだ後だな。家族が母ちゃんしかいなかったし家っぽかったとこも取り壊されたから路頭に迷っちゃってさ。
食べるものが無くて飢えて飢えて、食材屋の店先に売ってる芋取ろうとしたら「金払え」って当然怒られるだろ。でも当時7歳だった俺には仕事をしてお金を貰うって頭も力もなかったから。どうしようもなくて人のいる通りを避けるようになったわけ。

逃げたくても逃げられないような苛立ちと目が回るような感覚に襲われてどうしようもなくなった時に、野良猫が草食べてたの。そこら辺の。
それ見て草食べれば良いんだーってなったから、暫くゴミ漁りや人の物盗む合間に野草食べてたんだけどさ。
もっと食べたいと思って林に行ったときに、知らずに毒草食べちゃって。

本当にやばかった。吐いても吐いても止まらなくって、お腹の中身全部ひっくり返ったと思ってもずっと吐き気がするの。
涙は止まらないし全身痒くなるし呼吸もし辛いし。のたうち回ってたんだけど、何も摂らないのに吐く一方はやばいと思って死ぬ気で川まで這っていって、ずっと水飲んでた。

だからさー、いつかちゃんと食べられる野草とか勉強しなきゃなって思ったんだよね。勉強大事だなーって思ったのはその時。

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2つ目は商人の護衛依頼した時かな。俺を拾ってくれた傭兵団の初代リーダーが死んだ時のやつ。

なんか遺跡から発掘された貴重な資料?っていうのを、滞在していた街から少し遠くの都市まで至急届ける必要があったらしくて。
商人とその娘さんを馬車に乗せて、俺たち傭兵団の皆で守るように隊列組んで夜に出発したんだよ。
当時傭兵崩れの連中による襲撃とかがよく起きてたから昼間にしようってリーダー勧めたんだけど、商人聞かなくってさ。報酬さらに弾むからってことで結局受けたんだけど。

まあ、本当に襲撃されたよね。
それも結構慣れてた集団らしくて、装備が思いの外潤沢だったんだよあっち。魔法使える奴がいたらしいのもきつかった。直接攻撃してくる魔法じゃなくても、身体強化とか透明化の魔法とか、有利に立てる術をあっちが持っているってだけで本当に大変で。
次々と仲間が襲われて、リーダーまで死角からボウガンで撃たれてさ。落馬したことも考えるとそりゃ助からないだろうな。

俺はというと馬車の広さだとか体格だとか、色々考えた結果依頼人たちと同じ馬車に乗って警護することになってたの。それで、外から古株のおっちゃんたちがリーダーの名前叫んだり怒号を敵に浴びせてたりしたから「ああリーダー死んだのかな」って思いながら乗ってた。

でも、仲間に何か思うのはそこまでだった。
仲間の死を悼む余裕なんて許されていなかった。
結局俺、自分を拾ってくれたリーダーの死をちゃんと見ることできなかったんだよね。

ついに依頼人を乗せた馬車に迫る敵が来てて、俺はそれを迎撃するのに必死だった。
依頼人の娘さんがなんか凄い魔法扱うの上手い人だったから、俺に感覚強化と暗視の魔法を掛けてくれたんだ。

窓からこっちもボウガン使って敵を殺したり、御者台から長物で応戦したり。
御者さんが殺された後は俺が手綱握って目的地まで馬を走らせたんだけど。

敵に対抗する為の感覚強化の魔法がさ、役に立ったけど凄いきつかったんだよ。
痛覚まで強化されちゃったから斬られたり矢が刺さるとそりゃもうすっごい痛くて。
でも死んでられないから、馬車内にいる依頼人の娘さんにずっと回復魔法掛けてもらいながら戦ってた。

斬られて、回復されて、傷つけられて、治されて、ずっとそれが続いた。
あの時もかなりしんどかったなー。

……結局、依頼はなんとか成功させたよ。
傭兵崩れの連中もリーダー殺されてブチギレた古株の皆が執念で潰したんだって。

ただ、傭兵団はかなりの人を失った。
俺を拾ってくれたリーダーも死んでさ。いつも酒場で元気に馬鹿騒ぎするような皆が泣いてるの。
俺も泣ければよかったんだけどさ、俺人として変なのかな?痺れる頭の中で「ああ死んじゃった、リーダーも死ぬんだな。残念だな」くらいしか考えてなくって。

……や、悲しんでるよ。だって残念がるって悲しんでる証拠じゃない?

もっと色んなこと教わりたかったとか、もっといっぱい手合わせしたかったとか、もっと頭撫でてほしかったとか。色々考えてた。
死んじゃったから、もう考えたとこでどうしようもないし。すぐ考えるのやめちゃった。


それから、残った奴らで傭兵団続けていこうってことになったんだ。
団のサンボー役?みたいなポジションの頭良いにーちゃんがリーダーになって、新たに頑張っていこー!ってなったわけ。


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……はー、喋りすぎた。一旦休憩!ビールくれない?ビール。この宿人来なくて赤字なんだろー?金取りな金!ほらビール持ってきて!

ああそうそう、リーダーが変わってから俺髪染めてたんだよね。
2代目リーダー、なんか赤髪が死ぬほど嫌いらしかったんだ。初代のおっちゃんがいた頃は我慢してたらしいけど。
そういう人いるよね、なんか何かを死ぬほど嫌ったり憎んだりしてる人。

俺は特にこだわりなかったから、従って黒髪に染めてた。面倒だったけど誰かに嫌な思いさせるほうが嫌だったしね。



だから、今こんなプリン頭になってるんだー。
……え?今は染めなくていいのかって?

2代目リーダーも死んじゃったからね。まあ、それは休憩してから話すよ。