RECORD

Eno.563 一つ目の蜻蛉の記録

薄翅:Ⅳ

『プライベートルームに招待されています』

……

「……インしました、父さん」


「揃ったな」



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川越端ギンヤ
ヨウの父親。元プロゲーマーのゲーム開発者。
アバターが獣耳幼女なだけで普通に父親。


秋津サナエ
ヨウの母親。ゆるく【自然派】。
観葉植物を枯らしがち。


秋津ヨウ
この物語の主人公。



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「本題だ。
 ヨウ、お前最近ゲームの比率が高いな。
 成績は落ちてないみたいだが」


「落ちてないなら、よくないですか」


「まあまあ。父さんは心配してるんだよね」


「ヨウが将来何になりたいって言ってもいいように、
 勉強だけは頑張ろうねって約束だったから」


「……ゲームが楽しいのは、俺には否定する資格がない。
 だが、せめて節度は持ちなさい」


「……」


「……あの、父さんは。母さんでもいいけど。
 お肉を食べたことはありますか。
 本物の、動物の肉」


「……、母さんがたまに料理するものは、
 知っての通り植物由来の合成肉だ。
 数十年前ならともかく、今はあれしか流通には乗ってない」


「急にどうしたの?」


「あまり……過激なことを外では言わない方がいいぞ」


「父さんは格闘ゲームをしていたんですよね。
 武器を持ったことはありますか?怪我をした痛みは。
 人と戦う感覚を、感じたことは?」


「……」


「ない。俺たちが感じているものは、全てVRシステムが錯覚させているものだ。
 食べ物も味覚をごまかせば完全栄養食レーションでいいし、
 痛みも重みもフィクションになったから、
 争いはスポーツとして昇華された」


「ヨウはリアルの世界に遊びに出ているのか?」


「そんなはずは。ずっとスタジオの中にいるよ」


「……そう、ですよね。
 ごめんなさい、気分転換ができていなくて、
 最近ちょっとおかしいのかも」


「勉強に戻ります」


「あっこら、話は終わって」



──リベレがログアウトしました。

「……この年頃は難しいな。
 すまない、一緒に暮らせていればもっと話ができたのに」


「ギンヤさんはよくやってるよ。
 少子化対策で遺伝子だけ提供したっていうのに、ちゃんと父親もしてくれて」


「そのかわいい女の子のアバターをやめたら
 ヨウも心を開くかもしれないけど……」


「俺はこれが一張羅なんだよ!」