RECORD

Eno.313 エヴァム・リリスの記録

5 僕のリリス

 暗い部屋に僕は一人で寝ていました。部屋の隅に置かれた小さなランプが、微かな光を放っていましたが、それでも部屋は影に包まれていました。窓の外から漏れる月明かりが、この静かな部屋を照らし、その光が壁に影を投げかけていました。
 病気が僕の身体を蝕んでいました。僕は生まれつき身体が弱く、何度も病魔に倒れていましたが、今回が最後だと感じました。

「ねぇ。どーお、具合」

 僕はリリスを呼びました。この人はいつも僕のそばにいました。部屋の中に流れる静寂を打ち破るように、その人の声が響きました。妖精のように可憐で儚く、優しさで包まれていました。リリスは僕にとってただ一人の特別な存在でした。

「リリス、ぼく、もう……」

 言葉がうまく出てこない。心臓の痛みと心の弱さが僕の言葉を奪っていきました。しかし、リリスは微笑んで僕に近づきます。

「大丈夫、きみは強いよ」

 リリスの言葉は優しく、僕の心を温かく包みました。この人の手が僕の額に触れ、その心地はとても安心感をもたらしました。
 病弱の僕は、子供の頃から他の子達と遊ぶこともままならず、家族にも見放されるような日々でした。誰にも愛されたことがない僕は、自分の存在に疑念を抱き、暗い思考に囚われていました。

「ありがとう、リリス」

 僕は微笑みました。リリスの美しさは夜の中でも際立っていました。この人の存在は、この暗闇の中でさえ光を放っているように感じました。リリスは僕の手を取り、優しく抱きしめてくれました。その温もりが僕に力を与えました。

「好きだよ」

 リリスが囁きました。僕はそのやらわかな言葉に耳を傾け、幸せな気持ちでいっぱいになりました。この瞬間が、僕にとって最後の幸せな瞬間であることを知っていました。
 リリスの優しさに包まれながら、穏やかに目を閉じました。


 ◆◆◆

 雨が降る夜、街灯の明かりが微かに揺れていた。こどもは黒い服をまとい、小さな傘を持っていたが、傘を開くことはなかった。雨粒がこどもの髪に穏やかに触れ、黒い髪がしずくを静かに受け止める。

「────」

 こどもの小さな口から出た言葉は雨音に掻き消された。
 しばらくして、こどもは小さく息を吐き、歩み始める。小さな足跡が湿った地面に残り、その姿が暗闇に溶けるように消えていく。雨の中を歩くこどもの姿が、街の静寂を一層際立たせていた。

「飽きたな」

 その声は冷たく、孤独な夜の中で響いていた。何かを求めながら、そしてそれを手に入れた後に訪れる別れ。

「明日にはこの街を出よう」

 ここに残る理由がない。