RECORD

Eno.465 ラガーの記録

会話:宿屋夫婦の息子(後編)

……っぷは。はー生き返るー。
え?ビールのどこが美味い?んー、濃いしょっぱめ料理と合うとことかー、あと喉越しー?

別に無理して分かろうとしなくて良いと思うぞー。俺?俺はねー、傭兵団の皆がいつも酒場で楽しそうに過ごしてるからさ。仲間に入りたくて早くお酒飲みたいって思ったんだよね。

あー!だから無理して飲むなって!
はいはいじゃー話の続きするから!ジョッキ置きな!


+++


えーと、最後の凄いしんどくて死にかけた話ね。

リーダーが2代目に引き継がれた傭兵団になった訳だけど、領土争いの戦いに駆り出されることが増えたんだよな。

えーと、ここからうんと南にある×××領で4年前に起きた戦争知ってる?そうそう、■■■魔力域戦争ね。
貴重な資源とか価値の高い資源が沢山採れる土地を巡ってその近くの二国が西軍と東軍に分かれて争ったわけなんだけど、俺のいる傭兵団は西軍にいたんだよね。
結果無事勝ちました。いやま、ここは別にどうでもいいんだよ。

んでその後も人が死んだり死ななかったりしながら傭兵団は活動続けてたんだけどさ。


ある日、近くの村に逗留してた時のことなんだけど。村の人たちが頭を下げて「近くの洞窟に凶暴な魔物が住み着いて困ってる。討伐してくれないだろうか」って言うの。
報酬もなかなか良かったし、突然変異の魔物だとか場違いな怪物が出たとかそういう話は聞かなかったからさ、みんな繁殖期の魔物が暴れてるんだろくらいにしか思ってなくて。

引き受けて目的の洞窟に皆で行ったんだけどさ。
俺たちが奥に進んでいる間に村の人たちが入り口塞いじゃったんだよね。

村の人たちの半分くらいがさあ、さっき話した戦争で負けた東軍の領民だったんだよ。戦争に行った多くの人が帰ってこなかっただけじゃなく、賠償金払わされて、元々所有してた領土も奪われちゃった東軍の関係者たち。
その人たちの戦争中逃げた先がこの村だったらしいよ。

俺たちは別に西軍の人間とかではなく雇われただけなんだけど、それでも恨みがあったんだろうね。東軍の人間殺した事実は変わらないし。
塞がれた入り口の向こうから物凄い罵詈雑言が飛んでた。ごめんなーとは思うけど、でもほら、仕事だったからさ。

それで、何が問題かっていうとその洞窟にはご丁寧に毒の罠がめいっぱい張られてたんだよね。俺らが西軍に加勢した傭兵団だって分かってからせっせと罠仕掛けてたんだって思うとちょっと笑ってしまうけど。

遠慮なく毒矢が飛んでくるし酸を吐くスライムは居座ってるし毒煙も撒かれてるし、挙げ句の果てには元々洞窟にいた魔物が興奮する薬もぶちまけられてて。
その上逃げ場がないって言うんだから、もう阿鼻叫喚の地獄だった。

先頭を進んでた2代目リーダーが麻痺で全身動けなくなって倒れた途端、人喰いネズミの群れが一斉に集まったり。
兄貴分だった奴が地上の敵と戦ってる最中天井にいた巨大蜘蛛に絡め取られて帰ってこなかったり。
皆次々倒れていって、俺も麻痺毒が回り始めるわ呼吸うまくできなくて意識が朦朧としてるわでボロボロだった。

それでもなんとか脱出できないかなって奥まで逃げたらさ、行き止まりの壁にヒビが入ってる箇所見つけたんだよね。
そこからほんのかすかにだけどヒビで出来た隙間から風が吹き込んでたから、もしかしたら道があるんじゃないかと思って。他に生き残ってた奴2人いたからそいつらと無我夢中で壁を掘ってた。
俺麻痺毒で剣握れなくて落としたから、途中から拳殴るような形で壁掘ろうとしてたなー。きつかった。

それで3人でなんとか壁の一部壊したら、予想通り外に続く一本道と川があったんだよ。
あとはもうひたすらに逃げようと思って走ってたね。いや、走ってたつもりだったんだけど。

もう毒のせいで視界はぐるぐる回り続けるし、拳も握れないくらい力が抜けてるし、喉が締め上げられているように呼吸もできないし、まともに真っ直ぐ歩けない状態だったからさ。


俺、そのまま川に落ちたんだよ。

もうまともに体動かせなかったし声も出せなかったから、そのまま流されて、意識失って。
唯一生き残ってた仲間ともはぐれちゃってさ。
そのあと仲間ともう連絡取れなくなったから、あいつらが今生きてるのかも分からないんだけど。

とりあえず、当時洞窟内の川に落ちた俺はそのまま外に出て下流付近に建てられてた牧場に流れ着いてたらしいんだ。
いやー、プレートアーマーとか着てなくてよかった。鎧ガチガチに固めてたら絶対川底に沈んでたぞ。


んで、流された俺は牧場を経営してた家族に助けられたんだよね。みんなすごい優しかった。
毒とか傷とかいっぱい抱えてたからかな、流れついても三日三晩は高熱出してぶっ倒れてずっとうなされてたんだよな。
これはおまけの話なんだけど、その熱を出してから何故か酒に強くなったんだよな。俺もともとお酒弱かったの。毒に対する免疫ついたとか?

結局、それから逗留してた村には戻らなかったよ。戻れなかった。俺を知ってる奴らに出くわして殺されるかもしれないし。
だから仲間の死体を回収して弔うことも、自分の荷物を取りに行くとかもできなくて。





なんとか生き延びた俺には、何も残ってなかった。

俺を拾って育ててくれたリーダーも、
俺に色んなことを教えてくれた奴も、
仲良くしてくれた傭兵団の仲間も、

初めて自分で稼いだ金で買った野草図鑑も、
気に入って使ってたブロードソードも、
皆の話をまとめた手書きのノートも、

みんな、みんな、なくなった。

だからさあ、思ったんだよ。
ああ俺って人から貰ったもの大事にできないんだなって。人も人の縁も想いの形も、みんな失くしちゃう。恩知らずで申し訳ないなあって思っちゃった。

ああ、ううん。記憶とか知識とか技術はそりゃ残ってるよ。
でもさあ、"遠い"じゃん。
好きな人たちを思い出すのに、記憶の輪郭をなぞるのに、わざわざ何の色も味もしない知識とか技術に触れなきゃいけない。
それも触れたところで蘇る思い出はもう遠い遠い場所にあるように思える。

暫く呆然としてたな。これを悲しいって言うのかな?
でも、胸の中にあったのって"虚しさ"だったんだよな。からっぽ。どうせみんななくなる。仕方ないか、人生ってそういうもんなんだって気持ち。

これも悲しいっていうのかな?よく分かんないや。


それ以降、人から何か貰うのを申し訳なくなっちゃったんだよね。戦う道具以外持ちたくないんだ。どうせなくすから。

人と温もりを求めるのだって、お金を出して買った一夜限り。さっぱりきっぱり、その時だけの付き合いでいいよ。面倒ごとは困っちゃうし、縁ができてもなくなるの嫌だし。
対価を払ってその時だけの関係じゃないと、落ち着かない。

でも酒場で騒ぐのは好きだよ。お酒を口実に仲良くして、騒いでも喧嘩してもその場限りでおしまい。気持ちよく楽しい気持ちに浸れる。

どうせなくすんだったら持たなきゃいいんだよ。別にそれでも俺は困らないんだから。

それにさ、いちいち失くすたびに悲しんでいたらきっと俺は今頃潰れて壊れてるよ。


+++

……とまあ、こんな感じで。死にかけたんだよなーって話でした。

そのあと?恩返しで牧場で働いてたんだけどさ、家畜を盗みに来た泥棒が牧場主さんを殺しそうになってたから泥棒斬り殺したんだよ。やらなきゃやられてたんだから。
そうしたら家族みんな俺を怯える目で見始めちゃったから、申し訳なくて牧場出たんだー。

それから少しずつ道具を揃えてお金を貯めて、一人でフリーランスの傭兵として各地を転々として。
んで今はこの宿屋のお世話になってるってわけ。

こんな話楽しいのか?あーもうほらすぐそういう顔するー。だから辛い話とかしたくないって言ったじゃん。
別に、俺だけが辛く苦しい目に遭ってるわけじゃないだろ。俺よりももっともっとしんどい目に遭ってる人だって沢山いるだろうしさ。

俺自身が別に気にしてないんだから、それでいいじゃんね。





だからね、俺。今日は今日のことだけ考えてめいっぱい生きようって思ってるの。

いつ死ぬか分かんないもん、俺こんな生き方してるから。明日いきなりさっくり死ぬかもしれない。
他の奴らもそう。未来の約束をして叶ったらそれが一番だけど、そうならずすぐに死ぬことだってあるだろ。
だからなるべく、未来のことは考えないでいるんだ。なくなったら寂しいから。

死ぬのは怖い。死ぬまでの痛みは何より苦しい。だから死にたくないけれど、どうしようもならない時だってある。

だから一日一日を全力で楽しむんだ!いつ人生終わってもいいように!
美味しいもの食べて、美味しいお酒飲んで、人と楽しく騒いで過ごす!それができたらその日はもう最高!

俺はそれだけあればいいんだよ。幸せとか愛とかよく分かんないけど、今でも十分満たされてるし。別に困ったり悲しんだりとかしてないよ?

だからさ、アンタももう少し肩の力抜いて生きなって!ほら一緒に言おう!


──今日もいい日になるといいな!