RECORD

Eno.134 タニムラ ミカゼの記録

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雑記

 姉が母を殴って流産した時、父親は家に居なかったし、兄はトイレから出てこなかった。殴った姉は呆然と立ち尽くして、母が死ぬんじゃないかと下の子たちは泣く。自分が動くしか無かった。
 大人の見様見真似で救急車を呼んで、事情を説明して通話で指示をもらいながら対処した。

「勝手に救急車呼んで、お金大丈夫なの?」
 四南シナンが不安気に言って来たが、その時は「命の方が大事だから」と言って止めなかった。実際、四南シナンの憶測は当たってた。

 母は救われた。相応な金額を対価に。
 父は自分にありがとうを言う余裕もなく、泣きながら姉を怒鳴りつけていた。怯える下の子たちを別室に移動させて機嫌を取っていたら、今度は兄が怒鳴り散らしてきた。
 自分に。

 曰く、何で救急車を呼んだんだ。
 曰く、大学への受験費すら無くなってしまった。
 曰く、大学にいけなくなった。
 曰く、お前のせいで、勉強が全部無駄になった。
 曰く、お前が代わりに働けと。

 トイレで一人逃げ込もっていた長男が何を言ってるんだ、と言い返せなかった。口を開いたら、余計に怒るのは目に見えていた。黙るしか無かった。

 当時、14歳。当然働ける場所なんてない。なけなしのお小遣いを貰えるような場所か、身体を売って違法な大金を手に入れるか、そのくらいだ。
 それでも今すぐに金を用意しろと言った兄は、自分を家から追い出した。

 どうしたら良かったのだろう。軒下で蹲って、動く気力も無かった。何時間、寒い夜の外にいたか分からない。
 自分が外にいる事に気付いた父が、家の中に入れてくれた。


 姉と同じく就職難にあった。
 道端で出逢った、企業から脱走した魔導クローンと気が合った。
 そいつと共に、民間軍事会社『ウッドカット』に所属することになった。

 給与の半分は家族に渡して、有事には更に金銭を求められる。
 兄はまだ、受験に合格できていない。

 救急車を呼ばなければ、母を犠牲に兄は合格出来たんじゃないかと思ってた。
 多分、違う。自分達のような貧困層は、大学に行くような連中と学力に差があったんだ。塾にも行けない、周りも勉強してない、勉強する準備も整わない。

 そろそろ諦めるべきだ。
 兄に言わないといけないのに、言えないでいる。

 結局、金のない俺たちが悪いんだ。