RECORD

Eno.28 柿原玄輝の記録

呪い

──愛ほど強い呪いはない。

 故郷には、人魚と呼ばれる怪異がいた。
 国や地域によって特性は様々だが、有名なのは八百比丘尼だろうか。
 本州に広く伝わるその伝説曰く、人魚の肉を食べると不老長寿になるのだそうだ。

 故郷の人魚は、ひっそりと集落を作って生きていた。
 港町に近い場所に巣を構えたため、漁師の方々とは度々交流があったそうだ。
 ただ、彼女たちはある時を境に人口の減少が加速する。
漁師と恋に落ちた人魚が何故か、相手の漁師に食べられてしまったという話だ。
 よくある八百比丘尼の逸話を実践しようとした悪い男が、その二人を利用した結果である。
 しかし、八百比丘尼の逸話は少々異なっていたようだ。
 変わってしまった者は、一人を除いて存在しなかった。

 人魚は、恋した相手を呪うという。
 その呪いの効力は、ちょっと健康になる程度で、本来ならば微々たるものだ。
 しかし、己が恋した相手に食べられた時は、話が別だった。
 呪われた対象が、呪いの元凶を魂ごと直に取り込むことになるためである。
 命を賭した呪いを内から受ければ、それに抵抗する術は無い。
「愛する者に生きて欲しい」
 その呪いは、呪いとなり、対象に老化の先延ばしと擬似的な不死性を与える。

 それが発覚して以来、人魚の数は徐々に減少の一途を辿る。
 ここの人魚は女しか居なかった。人口増加のためには、他所から種を貰う必要がある。
 そのために交流を増やそうものなら、恋に落ちる人魚も必然的に増える。
 呪いの悪循環。人魚は衰退の一途を辿った。

 そして、自分も。
 幼少期。両親が他界し、ひとり遊びが増えてきた頃。
 海辺で、一人の人魚と出会ってしまったのである。
 それが、永遠に続く呪い痛みの始まりだった。