RECORD

Eno.109 ネージュ・コルウスの記録

目先の悩み

ロゼはしばしば飢えを訴えている。
成長し続ける泥の肉体は、常に莫大なエネルギーを要しているらしい。
それも、通常の食事だけで完全に満たされるものではない。
生きたままの生物からのみ得られる未知の何かを、求めているようだ。

画廊の世界で、ロゼは魔法の絵筆『フェアリーテイルスケッチ』と
世界特有のエネルギーを用いて、餌となる生き物をしばしば描いては生み出していた。
そして、絵から生まれた生物を泥が一呑みにする。
大抵は牛や豚などといった食肉用の動物だ。
たまに大きな木を描いて、飲み込んでいることもある。
取り込まれた生物は、泥の作用で骨含めて跡形もなくなる。

しかしロゼには、もっと描きたいものがある。
ロゼ曰く、自分は生きた人間の血肉が最も好むのだという。
動植物よりも個性が強固な知的生命体を、不特定に具現化させるのはより難しいので、
動物止まりになっているだけなのだ。

今はまだ最も吸収効率のいいニワトリで我慢させているが、
もしロゼがさらなる子孫を産み、新たな生物種として繁栄し始めたら。
ボクたちは生きた人間の血肉を捕ることを避けられなくなるかもしれない。
そうなればやがて、住み着いた先の世界の、
ひいては異世界の境界をも越えて、人類と生存をかけた戦いを始めることになるだろう。
ボクはその未来を、恐れるようになった。ごく最近になってからだ。

故にボクはありとあらゆる世界の人類の生存権から遠くにある、
辺境の土地を手に入れなければならない。
そして、できれば――ロゼたちの末裔が人間の血肉に頼らずに生きる道を探り、
人類との共存の道を考えなければならない。

少し前までは人間狩りも厭わないつもりでいたのに、
どうして今更、こんなことで悩み始めたのだろうな……。