RECORD
Eno.108 トーマ・ヒラサカの記録
この手紙がきっと貴方へ送る最後の手紙になるだろうから、
どうか最後まで、母の我儘を、読むだけ読んでください。
私はきっと貴方の帰りを待っていられないでしょう。
貴方が其方へ渡る前から罹っていた病が日に日に酷くなっているのです。
…自分の体のことは自分がよくわかります。
貴方への手紙を綴る手すらも、今は震える始末です。
読み辛い字になっていると思うけれど、どうか許してくださいね。
私は、母は、桃眞。貴方のことを信じています。
貴方ならきっと強くなって帰ってきて、温羅を討ち滅ぼせるだろうと。
けれど、もう、村の人達は温羅と戦うことを諦めています。
優磨様…貴方のお父さんと、一眞…貴方の兄さんが温羅に負けて
欠片だけが戻ってきた日…あれ以来村の人達はあの化け物に
叶う人間などいないのだと、絶望してしまっていたのです。
…貴方は、なんとなくそれを感じていたから、そちらへ渡ったんでしょう。
けれど折れてしまった人の心は、時に残酷な選択を行います。
つい先日、あの島に子供が3人送られました。
貴方のように鍛錬を行っていた子たちではありません。
3人のうち1人はまだ親の後ろをついて回るような幼い子でした。
神に捧げるという名目で、あの島に
大人の男すらも捻り殺す化け物がいる島に、送ったのです。
そう、村の人々は…あれに従属することに決めてしまったのです。
誰も彼もが貴方と同じように刺し違えてでもあれを倒すと立ち上がれず…
優磨様のようにたった一撃でも反撃をして斃れる、と顔を上げられなかった。
自分たちの明日、自分たちの命を守るために…生贄を選ぶことを決めてしまった。
そして私はそれを、止められなかった。平坂家に嫁いだというのに、情け無い。
だから桃眞、貴方はこんな村にもう戻ってきてはいけない。
もしかしたら敵は温羅だけではなくなるかもしれないのです。
貴方は今や村人たちにとって従属を選んだ矢先に、神と崇め始めたものに牙を剥く
自分たちの平穏を脅かすかもしれない存在でしかない。
私はきっと貴方は神気取りの化け物の首を、落としてくれると信じているけれど
貴方の武者修行にすら意味がないと言っていた村人たちはそうではないでしょう。
だから、戻ってこないで。貴方はこんなところを故郷にしないで、
他のもっと広い世界で生きなさい。人はどこでだって生きていけます。
私は、母は、もう貴方の帰る場所として在り続けていられないのです。
私の体を心配してくれてありがとう。
貴方の帰りを待ってあげられなくてごめんなさい。
母は貴方が幸福であればそれ以上のものは望みません。
どうか村のことは忘れて、どこか遠い土地で生きていてください。
立派になった貴方を見られないことだけが、心残りです。
先に優磨様と一眞の元へ行きます。
貴方はずっと遠回りをしてからくるように。
平坂三千代
平坂桃眞宛ての手紙
この手紙がきっと貴方へ送る最後の手紙になるだろうから、
どうか最後まで、母の我儘を、読むだけ読んでください。
私はきっと貴方の帰りを待っていられないでしょう。
貴方が其方へ渡る前から罹っていた病が日に日に酷くなっているのです。
…自分の体のことは自分がよくわかります。
貴方への手紙を綴る手すらも、今は震える始末です。
読み辛い字になっていると思うけれど、どうか許してくださいね。
私は、母は、桃眞。貴方のことを信じています。
貴方ならきっと強くなって帰ってきて、温羅を討ち滅ぼせるだろうと。
けれど、もう、村の人達は温羅と戦うことを諦めています。
優磨様…貴方のお父さんと、一眞…貴方の兄さんが温羅に負けて
欠片だけが戻ってきた日…あれ以来村の人達はあの化け物に
叶う人間などいないのだと、絶望してしまっていたのです。
…貴方は、なんとなくそれを感じていたから、そちらへ渡ったんでしょう。
けれど折れてしまった人の心は、時に残酷な選択を行います。
つい先日、あの島に子供が3人送られました。
貴方のように鍛錬を行っていた子たちではありません。
3人のうち1人はまだ親の後ろをついて回るような幼い子でした。
神に捧げるという名目で、あの島に
大人の男すらも捻り殺す化け物がいる島に、送ったのです。
そう、村の人々は…あれに従属することに決めてしまったのです。
誰も彼もが貴方と同じように刺し違えてでもあれを倒すと立ち上がれず…
優磨様のようにたった一撃でも反撃をして斃れる、と顔を上げられなかった。
自分たちの明日、自分たちの命を守るために…生贄を選ぶことを決めてしまった。
そして私はそれを、止められなかった。平坂家に嫁いだというのに、情け無い。
だから桃眞、貴方はこんな村にもう戻ってきてはいけない。
もしかしたら敵は温羅だけではなくなるかもしれないのです。
貴方は今や村人たちにとって従属を選んだ矢先に、神と崇め始めたものに牙を剥く
自分たちの平穏を脅かすかもしれない存在でしかない。
私はきっと貴方は神気取りの化け物の首を、落としてくれると信じているけれど
貴方の武者修行にすら意味がないと言っていた村人たちはそうではないでしょう。
だから、戻ってこないで。貴方はこんなところを故郷にしないで、
他のもっと広い世界で生きなさい。人はどこでだって生きていけます。
私は、母は、もう貴方の帰る場所として在り続けていられないのです。
私の体を心配してくれてありがとう。
貴方の帰りを待ってあげられなくてごめんなさい。
母は貴方が幸福であればそれ以上のものは望みません。
どうか村のことは忘れて、どこか遠い土地で生きていてください。
立派になった貴方を見られないことだけが、心残りです。
先に優磨様と一眞の元へ行きます。
貴方はずっと遠回りをしてからくるように。
平坂三千代