RECORD

Eno.3 マイリーの記録

夜に響くラムネの音


少女と彼女が一緒にいる事を確認する為、夜になると悪霊は部屋へと戻る。
どんな形であれ、二人には一緒に居て貰わなければ悪霊の望みは叶わない。
外の世界へと一緒に行ってくれる選択を願い、悪霊はそれまで耐えるつもりであった。

今後の彼女の未来に大きな影響を与える大事な選択。

話は既に終えているが、悪霊はまだ答えを聞けていない。
簡単に頷く事が出来ないのも悪霊は理解していたので先延ばしにしていた。
ただ、首を横に振れば悪霊は手段を選ばないつもりであった。
他者の考えを否定し、自分の望みの為に手段を問わないというのは
まさしく悪霊の在り方そのものであると言えるだろう。

しかし、その日。悪霊は机に置かれたモノと部屋の状況を見て大きく取り乱した。
机の上には、外世界渡航券と「でかけてくるね」と書かれたメモ。
そして部屋にはベッドで眠る少女が一人という状況であった。

『……コイツはどういう意味だ? ペルシル』

悪霊にはそれが別れを告げるモノにしか見えなかった。

悪霊は彼女の体の状態が、この場所だからこそ永らえている事を知っている。
悪霊は自分が無茶なお願いをしている事も知っている。
だが、既に伝えていた。それでも悪を以って望みを叶えようとしている事を……

カランカランカランッ

少女の近くで悪霊はラムネを鳴らす。
一度眠ると中々起きない少女を起こす方法。悪霊と彼女だけが知る緊急時の対応。

少女は眠い目を擦りながら緩慢に体を起こし始める。
その間に悪霊はリュックに詰め込めるだけの武器を入れ始めた。

『御嬢、起きるんだ!
 早くしないとペルシルと一緒に居られなくなるぞ!
 他の霊へのお願いも今はなんだってしてもいい! 
 だから、ペルシルをすぐに見つけ出すんだ! それから……』

悪霊は一瞬躊躇う。だが、悪の道を選ぶと決意していた。
周囲を不幸にして望みを叶える。悪霊は悪の道を進んだ。

『おもちゃで遊んででもペルシルを止めろ、御嬢!』

少女は悪霊の声とその内容に驚き、動きを止める。
焦点の定まらない真っ赤な双眸は不安に染まり始めた。

「えっ……? ペルシルいなくなっちゃうの……?」

不安を隠すように少女は毛布を体にギュッと巻き付ける。
少女は胸が締め付けられるような痛みから少しでも心を守ろうとしていた。

――早く見つけないといけない。

少女は毛布から手を離し、涙が滲み始めていた目を擦ると、
ベッドから跳び下り、今にも泣き出しそうな顔を前へと向けた。

「……みんな、おねがい。ペルシルをみつけて?
 マイリーのだいすきな人を……おねえちゃんをみつけて?」

その願いに応える無数の霊が赤い瞳に映る。
普段よりもずっとずっと多くの霊がそれに応え、濁流の如く周囲へと向かって行く。

少女の力は想いの強さに比例する。
想いが強ければ強いほどその効力は発揮される。

そして、願いの内容。
霊がそのお願いを聞き入れない限りは何も起きる事は無い。
だが、悪霊と少女の周りには二人の様子を羨む霊が多く集まっていた。
悪霊の望みでもある、少女の幸せを願うモノは多かった。

悪霊は悪を為す為にリュックをくわえて浮かび上がる。

――探せ探せ。見つけろ見つけろ。小さなレディが泣き出す前に

個にして群である幽霊屋敷の御嬢様は、強い想いと霊が肯定する願いを持った。
群れは統率のとれた軍となり、御嬢様はその頂点に君臨した。
今の少女は試合の時とは比べ物にならない強さを手にしている事だろう。