RECORD
Eno.306 スオジィエの記録
高山は静かで穏やかで何ら不満は無かった。
だから微睡みと目覚めを繰り返し、水を踏んでいた龍が山を下りたことに理由は無かった。
山を下りれば生物が増える。
龍は己の身体が随分と大きいことに気が付いた。
龍はなるべく動きやすいように、可能な限り小さい生物の姿を真似た。
獣、獣、獣、獣、獣、獣。
その内の一つが人であった。
龍は生物の中を、その姿を借りて紛れて歩み続けた。
群れに潜んでは獣達を眺めた。
かつて厭った忙しない生物の営みもこうして観察すると悪くはない。
龍は人の群れの中にも紛れてみることにした。

それは村と呼ばれる物だった。
人の姿を模れども言葉を話せない龍を、その村は拒むことなく迎えた。
襤褸切れのようなものを纏っていた龍に、古く擦り切れていても丁寧に作られた服を与え、意思のはっきりしない其れに食物を与え、声を掛けた。
人々は龍を同情すべき者と判断し、慰めようとした。
龍は人々の営みをよく観た。
他の獣の営みと同じく、悪くはない。
他の獣と過ごす以上に刺激の多い日々。
龍にとって、これは不快では無かった。
「あなた、これは食べられる?」
「少しついてきてご覧。手伝わなくとも良いから。君の記憶が戻る助けになるかもしれない」
「遊ぼう」
「よく眠れたか」
「今日は良い天気だね」
人々は龍を同情するべき者と判断した。
だからこそ、身を護る術を教えなければならないと考えた。
龍に棒を与え、扱い方を教え、打ち合いをした。
龍にとってそれは、これまでに知らない愉しいことであった。
暫くして、龍は人々に別れも告げずに山に戻った。
そうしてながく、ながくながく、眠った。
それはこれまでの微睡みとは異なる、ながい眠りだった。
昔噺2
高山は静かで穏やかで何ら不満は無かった。
だから微睡みと目覚めを繰り返し、水を踏んでいた龍が山を下りたことに理由は無かった。
山を下りれば生物が増える。
龍は己の身体が随分と大きいことに気が付いた。
龍はなるべく動きやすいように、可能な限り小さい生物の姿を真似た。
獣、獣、獣、獣、獣、獣。
その内の一つが人であった。
龍は生物の中を、その姿を借りて紛れて歩み続けた。
群れに潜んでは獣達を眺めた。
かつて厭った忙しない生物の営みもこうして観察すると悪くはない。
龍は人の群れの中にも紛れてみることにした。

それは村と呼ばれる物だった。
人の姿を模れども言葉を話せない龍を、その村は拒むことなく迎えた。
襤褸切れのようなものを纏っていた龍に、古く擦り切れていても丁寧に作られた服を与え、意思のはっきりしない其れに食物を与え、声を掛けた。
人々は龍を同情すべき者と判断し、慰めようとした。
龍は人々の営みをよく観た。
他の獣の営みと同じく、悪くはない。
他の獣と過ごす以上に刺激の多い日々。
龍にとって、これは不快では無かった。
「あなた、これは食べられる?」
「少しついてきてご覧。手伝わなくとも良いから。君の記憶が戻る助けになるかもしれない」
「遊ぼう」
「よく眠れたか」
「今日は良い天気だね」
人々は龍を同情するべき者と判断した。
だからこそ、身を護る術を教えなければならないと考えた。
龍に棒を与え、扱い方を教え、打ち合いをした。
龍にとってそれは、これまでに知らない愉しいことであった。
暫くして、龍は人々に別れも告げずに山に戻った。
そうしてながく、ながくながく、眠った。
それはこれまでの微睡みとは異なる、ながい眠りだった。