RECORD
Eno.163 惨禍の記録
精神的傷
それは多分、本人も忘れかけていた傷だった。
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そんなことを、あの日の粘菌怪物も思っていたんだろうか。
大した武器も持たない犯罪奴隷たち。繁殖と肉体労働しか取り柄のない、潰しても増える劣等生物のレッテルを貼られた犯罪者たち。
未開の迷宮を切り開くために捨て石にされ、迷宮の通路をいっぱいに塞いだ緑の波に攫われた、犯罪者たち。
触手人はあの時、原始的で自然的な、暴力とすらいえない当たり前の食物連鎖を見た。
捕食。蹂躙。凌辱。溶解。
悲鳴。怒号。懇願。絶叫。
あの時、触手人は誰かの手を掴んで只管に逃げた。その誰かもその粘菌怪物から受けた傷で死んだのだけれど。
誰かの囁く声。上から見下ろす、輪郭のない人型。
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好きにやる。
暴力を振るうということは暴力を振るわれることだ。
しかしそれが振るった行いは知的生命体が握る、相手を侵害するという意味での暴力ではなく、ただ飢えたから齧るといった原始的すぎる、ただの食事だった。


好きにするから好きにされた、と言われればそれまで。
触手人が掲げる信条となんら背くことはないのだけれど、味わった苦痛をそれで割り切れるほど生き物として精神が完成しているわけではない。
根本的な恐怖を乗り越える事はできなかった。
「わざわざ喰われる口実なんて作らなくても良いのに」
そんなことを、あの日の粘菌怪物も思っていたんだろうか。
大した武器も持たない犯罪奴隷たち。繁殖と肉体労働しか取り柄のない、潰しても増える劣等生物のレッテルを貼られた犯罪者たち。
未開の迷宮を切り開くために捨て石にされ、迷宮の通路をいっぱいに塞いだ緑の波に攫われた、犯罪者たち。
触手人はあの時、原始的で自然的な、暴力とすらいえない当たり前の食物連鎖を見た。
捕食。蹂躙。凌辱。溶解。
悲鳴。怒号。懇願。絶叫。
あの時、触手人は誰かの手を掴んで只管に逃げた。その誰かもその粘菌怪物から受けた傷で死んだのだけれど。
誰かの囁く声。上から見下ろす、輪郭のない人型。
「こうやって、サ」
「死んだほうが辛くないし、痛くないし、考えなくていーのに」
「難儀だね」
好きにやる。
暴力を振るうということは暴力を振るわれることだ。
しかしそれが振るった行いは知的生命体が握る、相手を侵害するという意味での暴力ではなく、ただ飢えたから齧るといった原始的すぎる、ただの食事だった。

「想像したより」

「ずっと苦しいモンだったナ」
好きにするから好きにされた、と言われればそれまで。
触手人が掲げる信条となんら背くことはないのだけれど、味わった苦痛をそれで割り切れるほど生き物として精神が完成しているわけではない。
根本的な恐怖を乗り越える事はできなかった。