RECORD

Eno.423 モルドの記録

お嬢様だけど本当はお嬢様じゃないちょっとだけ悪魔の女の子

親がちょっとだけ、男性を誘惑する悪魔だった。
昔話のように驚異的では無い程度の、惑わす力。

男の人たちをかどわかして、周囲の人も巻き込んで。
そうしてなんやかんや、刺されて死んでしまった。

だから、むやみに愛を振りまいてはいけないの。
それが、幼い少女が親から教わった唯一のこと。


孤児院で、食事や睡眠をとり、お手伝いをこなして。
遊びの時間は、にぎやかさから離れて、一人でぼんやり。

そこへ聞こえる泣き声。目を向ければ青い肌に尖った耳。
自身より分かりやすく、怪物の名残が姿にあらわれている少年。

ほんの少しの仲間意識。
それが、近付いた理由で、傍にいることを拒まなかった理由で。
ともに過ごす時間は、離れたくない理由を生んだ。

少女は少年の手を引いた。新しい生活に連れて行った。
金持ちの所有物であることを示す衣服に身を包めば、
幼馴染の少年は、虐められる機会がぐっと減った。



しかし。
豊かな暮らしを送るうち、やがて少女は気付いていく。
金持ちは、自分を引き取ったのではなく、買ったのだと。

予感は当たり。
見目麗しく、意思に関わらず、誘惑の力を持つ少女は。
商談を成功させる"材料"として、使われることになる。

拒否する少女へ、金持ちは優しい声で耳打ちする。

弱らせやすく、高い再生の力を持つ、現代の吸血鬼は。
"玩具"として需要があるのだ。暗い場所での娯楽の話。
幼馴染をそこへ落とされたくなければ、と。


首輪をかけられていたのは少女の方。
せめて鎖の先を握る手は、幼馴染の青い手であってほしくて。
その怪物の血に望みを見た。血を啜り支配する、吸血鬼の力を。

首筋を噛めと言う命令は拒まれた。
手首を噛めと言う命令は拒まれた。

指先にほんの少しの傷をつけ、
そこからの一滴だけがようやく受け入れられた。

この一滴の蓄積が、いつか眷属をつくる力を復活させないか。
そうならないから、生かされているのだと知りながら。
それでもと縋って、赤い滴を与え続けている。



少女は幼馴染にメイドの役割を望んだ。
普通から外れた衣服に身を包ませて。
他の誰かに受け入れられることが無いように。
手を離されないようにするための、幼い独占欲。

少女は幼馴染に怪物の役割を望んだ。
拒絶の言葉を吐く口に、無理矢理己の血を流し込んで。
怪物の力で、心を縛り付けて、絶対を与えてほしくて。
どんなことも我慢するための、安楽の首輪。

本当は。
少女は、全てから救い出してくれる王子様を望んでいた。