RECORD
Eno.492 レオンの記録
ここに来る直前のこと2
無機質な壁に囲まれた部屋で、後ろ手に椅子に縛られていた。
それまでは監視役の男二人が値踏みするような眼をしていたが、髪を上げたスーツ姿の男が一人入室した途端に背筋を伸ばして、彼に頭を下げる姿を見た。
「お疲れ様です、若!」
「あいよ。コレが例のか」
どうにもこのギャング達の頭らしい。もっと粗雑な格好かと思ったが、案外しっかりしているらしい。
「お前が俺らンとこの壁に落書きしたってヤツか。レオンって名前だからてっきり男かと思ったわ。
結構汚れちゃいるがカラダは良いってのによ。そのぼさぼさの髪整えて繕って、風呂で客取って貰えりゃもっと儲けられたかもしれねェってのに」
前言撤回、これは危ない輩だ。
大事な壁に落書きをした。それが己に課せられた咎だ。
公共施設にそうしたのならまだ猶予はあったかもしれない。だが今回ヘマして捕まったのは地元でも有数のギャング集団のナワバリだった。
ここまで同行していたシドニーの名前や話題は聞かないから恐らく逃げ切れたのだろう、と信じたい。
「まあいいや。女一人沈めてもはした金だしな。
嗚呼ごきげんようお嬢ちゃん?うちらの壁に落書きしてくれたんだって?現場を見たけどクールじゃねェの、パッションに溢れた良い絵を描く」
「……」
「素直に褒めてるのにノーコメントか?義理でも愛想笑い浮かべておいた方が女は得するぜ?」
こんな状態では蒼白するか押し黙るしかないだろう。
和ませたいのか冗談なのか分からず、ただ心を虚にしてやり過ごす。
「でな、お嬢ちゃんの腕を見込んでちょっと頼まれごとをしてほしいのよ。遠方へ飛んでって、ちょこっと小銭稼ぎをして貰いたい」
「……う、売り飛ばすんですか。危険な密漁とか」
「あーあー、海賊とか密漁とか人身売買は締め付けが厳しいし、俺らもたかがギャングだ。手を付けるにしても時代もコスパも悪い。
女ならそれこそ風呂なり街娼なり稼ぐ手は幾らでもあるが纏まった金がとれる保証もねェし最近は娼婦の殺人騒ぎで色々……ああこれはどうでも良いか。
ともかく、手垢がついてなくて、もちっと大きな事業に手を付けたいんだが……お前にはその人柱になってもらいたい」
男は椅子を引っ張り出して、背もたれに体を預けながら頭の後ろで手を組んだ。
「近頃ここらで妙な噂が流れてる。拉致された先で不思議な力を持たされて殺し合いをしただの、突然死体が動き出しただの。
フリーター、闇医者、風俗嬢、バーの店主にお前と同じ不良娘……洗ってみると件数は多くねぇが情報は多い。
そこであるルートを通じてある武闘会が行われることを掴んだ。不思議な力とやらを駆使して戦う場だ」
「……そこで戦えって?」
「心配するな、不思議な力ってやつは参加者に貸与されるモンらしい。ローンもないんだと。
おまけに怪我を負っても治るし住み込みで働けるってな」
男は勢いをつけて立ち上がり、顎に指を這わせて顔を上げさせてきた。
「そこで見聞きしたことと、そこで得た金を俺らに献金してくれりゃ許してやるよ。素人の稼ぎには期待してねぇが情報は大事だ。
大学生なんだからレポートくらい余裕だろ? つか芸大でもレポートって書くのか?」
己の荷物から物色したのであろう、学生証を手にひらひらとさせながら男は笑っていた。
これが、己の顛末だ。
それまでは監視役の男二人が値踏みするような眼をしていたが、髪を上げたスーツ姿の男が一人入室した途端に背筋を伸ばして、彼に頭を下げる姿を見た。
「お疲れ様です、若!」
「あいよ。コレが例のか」
どうにもこのギャング達の頭らしい。もっと粗雑な格好かと思ったが、案外しっかりしているらしい。
「お前が俺らンとこの壁に落書きしたってヤツか。レオンって名前だからてっきり男かと思ったわ。
結構汚れちゃいるがカラダは良いってのによ。そのぼさぼさの髪整えて繕って、風呂で客取って貰えりゃもっと儲けられたかもしれねェってのに」
前言撤回、これは危ない輩だ。
大事な壁に落書きをした。それが己に課せられた咎だ。
公共施設にそうしたのならまだ猶予はあったかもしれない。だが今回ヘマして捕まったのは地元でも有数のギャング集団のナワバリだった。
ここまで同行していたシドニーの名前や話題は聞かないから恐らく逃げ切れたのだろう、と信じたい。
「まあいいや。女一人沈めてもはした金だしな。
嗚呼ごきげんようお嬢ちゃん?うちらの壁に落書きしてくれたんだって?現場を見たけどクールじゃねェの、パッションに溢れた良い絵を描く」
「……」
「素直に褒めてるのにノーコメントか?義理でも愛想笑い浮かべておいた方が女は得するぜ?」
こんな状態では蒼白するか押し黙るしかないだろう。
和ませたいのか冗談なのか分からず、ただ心を虚にしてやり過ごす。
「でな、お嬢ちゃんの腕を見込んでちょっと頼まれごとをしてほしいのよ。遠方へ飛んでって、ちょこっと小銭稼ぎをして貰いたい」
「……う、売り飛ばすんですか。危険な密漁とか」
「あーあー、海賊とか密漁とか人身売買は締め付けが厳しいし、俺らもたかがギャングだ。手を付けるにしても時代もコスパも悪い。
女ならそれこそ風呂なり街娼なり稼ぐ手は幾らでもあるが纏まった金がとれる保証もねェし最近は娼婦の殺人騒ぎで色々……ああこれはどうでも良いか。
ともかく、手垢がついてなくて、もちっと大きな事業に手を付けたいんだが……お前にはその人柱になってもらいたい」
男は椅子を引っ張り出して、背もたれに体を預けながら頭の後ろで手を組んだ。
「近頃ここらで妙な噂が流れてる。拉致された先で不思議な力を持たされて殺し合いをしただの、突然死体が動き出しただの。
フリーター、闇医者、風俗嬢、バーの店主にお前と同じ不良娘……洗ってみると件数は多くねぇが情報は多い。
そこであるルートを通じてある武闘会が行われることを掴んだ。不思議な力とやらを駆使して戦う場だ」
「……そこで戦えって?」
「心配するな、不思議な力ってやつは参加者に貸与されるモンらしい。ローンもないんだと。
おまけに怪我を負っても治るし住み込みで働けるってな」
男は勢いをつけて立ち上がり、顎に指を這わせて顔を上げさせてきた。
「そこで見聞きしたことと、そこで得た金を俺らに献金してくれりゃ許してやるよ。素人の稼ぎには期待してねぇが情報は大事だ。
大学生なんだからレポートくらい余裕だろ? つか芸大でもレポートって書くのか?」
己の荷物から物色したのであろう、学生証を手にひらひらとさせながら男は笑っていた。
これが、己の顛末だ。