RECORD

Eno.194 スリア・モモヤマの記録

エビフライ

いかにして斬ろうか。
どのように斬ろうか。
剣の道に生きているとそんなことばかりを考える。

その日もそんな事を考えて山を登っていた
行楽の為ではなく修行の為

気付けば霧深い山の中
あたりに似つかわしくない屋敷を発見した

ちょうど良い
軒先でも借りられればと思い戸を叩くも返答はない

目を凝らして見れば屋敷の荒れ果てたこと
既に住む人も居なくなったと判断し堂々と屋根の下で夜を明かす。

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明くる日、お天道様の光で目を覚ませば
昨日が嘘のように霧も晴れて辺りが見渡せた

なんと水の豊かな土地だと
そう感嘆の息を漏らす

水音を頼りに散策すれば滝を見つける
何かに惹かれるように流れ落ちる水を掬い喉を潤す

旨い
今までに味わったことのない水の旨さに
こんどは思わず声を漏らした

ここを修行の場としよう
そう決意をすると同時に腰の刀を抜く

背後に忍び寄る気配があった
寄らば斬ると睨みつけたその者達は驚愕の目で私を覗き込んでいた

もしや屋敷の者かと思い鞘に得物を収め話を聞く

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話は二つ

一つは場所の話
聞いた話が真であれば、ここは元いた世界とは少し違う世界だと
ここは仙人が住まう仙界
そこに何かの拍子で迷い込んだようだった

二つは水の話
仙界に流れる水を飲んだ者は生死の輪から外れ
死ぬことが無くなる

それだけを私に話をした仙人の一人は最後に私を仲間と言いその場を離れていった

嘘を言うのならもっと真実味をもたせるべきと苦笑する

仙人達とはそれ以降会うことはなかった


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先の話が嘘ではないと分かったのはしばらく後だ

高い崖から足を踏み外そうが
落石に半身を潰されようと
自ら腹に刃を通そうと

大小ある致命傷はたちまち塞がり、結合し、生成され元の私に戻る。

これは良い
これで剣の道を極める事ができる

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数年その場で技を磨き、山を下る

刀の冴えは山籠り以前の比ではないと自負していた

ひとまず里に降り、奇妙な土産話を故郷届けよう
意気込んで下山した先に広がっていたのは見覚えの無い景色

下る方向を誤ったのかと思い人に尋ねるも辻褄が合わない

ふと思うところがあり日を尋ねる
そして合点がいった

恐らく、仙界での数年が人界での数百年なのだろう

思わず立ち尽くす
ここには既に自分の知っていたはずの世界が無いのだから