RECORD
Eno.32 スプレンドーレ・テンポラーレの記録
望輝者
私が住む世界には『三望』と呼ばれる者たちが存在していました。
絶対至上の賢さを求める『望賢者』。
決して枯れない命を求める『望命者』。
強すぎるが故に死を求める『望死者』。
己が求めるモノのためにどんなことだってやる、けれどそれぞれの国の役に立っているため法で裁かれることはない“這い寄る無法地帯”。
私もその仲間に入れてほしく、どうすればいいか考えました。
考えた末、勝手に『望輝者』と名乗ることにしました。
これまでも勝手に『望◯者』と名乗るものはいましたが、すぐに行方をくらませてしまっていましたので……
きっと、向こうから来てくれるだろうと思ったのです。
「……お前か。『望輝者』を名乗る者は」
「ええっ、はい! お待ちしておりましたよっ♪」
城下町の路地裏を歩いていると、目論見通り彼はやって来ました。
ダンディな雰囲気の、獣人のおじ様。
「……なるほど。巨人族と人間族の合いの子。風の噂で聞いた巨人族の姫か」
「おや、私のことをご存知でしたのですね!」
「……悪いことは言わない。お前には身分がある。権力もある。オレたち『三望』に混ざろうとしたところでメリットはないだろう」
深いため息を吐きながら望死者は忠告してきました。
……ですが、それで『はいそうですか』という私ではありません。
「いいえ! 全世界に向けて『私はこれを望んでいる!』と発せられるのは素晴らしいではありませんか! それに、巨人族以外の国でも好きに動けるようになりますしっ♪」
今の姫という立場では人間の国で暴れようものなら国際問題、種族間戦争になるでしょう。
けれど、『三望』という立場なら人々は看過せざるを得ない。そんな暗黙の了解が世界に浸透していたのです。
「……俗物だな」
「望みを掲げるアナタがそれをいいますか?」
「……オレは違う。と言いたいが、他の二人のことを考えれば否定もできんな」
「それでそれでっ、どうすればアナタたちの仲間入りができますかっ!?」
「……はぁ。『三』という数字には特別な意味がある。人数を増やすわけにはいかん」
「では、入れ替わればいいのですねっ!?」
「物分かりがいいようで助かるよ。現『三望』の誰かの望みを果たせれば、お前は晴れて『三望』のメンバーになるだろう」
「うーん、そうですか……」
誰かの望みを果たす。そう言われて考えてみました。
まずは『望賢者』。
うーん、私はあまり賢さを欲していないので、ソレを果たすことは難しいでしょう。それに、賢さの果てには絶望しかないような気がしていますから。
次に『望命者』。
魔法を研究すれば私でも果たせそうですが……少々年月がかかりそうです。
しかし、私は今すぐに目的を果たしたいのですっ!!
「……ああ、それじゃあ。アナタの望みを果たすのが一番手っ取り早そうですっ♪」
「そうか、他の『三望』入りを目指す者たちも同じ選択をしていたよ……だが、それはもっとも愚かな選択だ」
「……ふぅん?」
「『死』を望むほどの強さがどのようなものか……よく考えたら上で、それでもオレと入れ替わろうなどと思うのなら──」
そう言って望死者は一枚の紙切れを私に手渡してきました。
「この場所に来るがいい。長くは滞在しないが、そうだな……明後日から一週間は間違いなく居るだ──」
「うふふっ、そんな勿体ぶったことは言わず、今すぐ始めましょうよっ♪」
私は我慢できず、望死者の手を取り、転移魔法を使いました。
「!?」
「なるほど、此処が今のアナタの住処ですか。ザ・古城といった感じですね」
「……このオレでも移動に二日かかる距離だぞ? 一度でそこまで転移可能な魔法が──そうか」
「あら、どうしました?」
「ふん、お前なら本当にこのオレを殺せるやも、と少し期待しているだけだ」
「まあっ、嬉しいっ♪」
「……名前を聞いておこう」
「スプレンドーレ。スプレンドーレ・テンポラーレと申しますっ♪」
「そうか。オレはラウフェン・ナハト。スプレンドーレよ、端から本気でいいな?」
「ええっ、勿論っ! そうでなくては意味がありませんっ! 死を望みたくなるほどの強さ、その輝きを……私に見せてッ!」
「輝き、か……フッ!!」
私は風魔法を身に纏い、望死者……ラウフェンさんに突撃しました。
そして、彼は私の突撃を受け止めて……
風魔法で切り裂かれることも厭わず、私の身体を捕まえて投げ飛ばしたのです。
「……ッ」
数十秒飛ばされながら、私は思考を巡らせていました。
巨人族ほどの力はないけれど、身体の使い方が今まで会った誰よりも上手く、ソレ故に威力がとんでもないことになっていると。
──ああっ、なんて素晴らしい輝きっ♪
「──まあ、当然のように戻って来るよな……って、なんでそんなピンピンしているんだ。城壁を突き破っただろうが」
「たしかに痛かったですが……笑って我慢できる範囲ですっ♪」
「……ハッ。頑丈な魔法使いだな! 初めて見るぞ!」
「私も、これほどまで期待を持てる方は初めてですよッ! もっと、もっとアナタの輝きが見たいッ!!」
お互いに笑顔をぶつけ合って。
これからどんな最高の闘いが待っているのだろうと期待しながら私は彼に向かって腕を伸ばしました。
「……おや、風の鎧はもういいのか?」
「うふふっ、防御効果がないのなら、もっと攻めに特化しようと思いましてねっ♪」
「ふん……何をやるつもりかわからんが、全力で来るがいいッ!」
「……ええっ♪」
「──なっ」
返事をした後、私は彼の右腕を吹き飛ばしました。
「……無属性魔法をくらうのは初めてですよね?」
「……無属性、だと?」
「どこにもない故に不可視。ふとした瞬間に現れる故、理論上は対処不可能な魔法……それが、私が作り上げた『無属性魔法』です」
「……ふ、はは。そうか。そう、か……!」
「さあ、この状況でもアナタは輝いてくれますよねっ! さあ、さあ……! ……あ?」
「いや、いい。もういいんだ……オレはようやく死ねるんだな」
「……たしかに殺すつもりですが、抗ってくださいよ。この絶望的な状況の中……輝いてくださいよッ!!」
「……ふふ、生憎だが、オレは『望死者』。死ねるのならお前の望みなどどうだっていい。傲慢だからこそ『三望』なのだ」
「……ッ!」
「……ほら、『三望』になりたいのだろう?」
「……わかりました。望み通り──死ね」
──私が晴れて『望輝者』となった記念すべき日。
それなのに、どうあっても心は満たせませんでした。
あの望死者が私の魔法をくらった一瞬で死を悟った。
この事実がどうしても恐ろしかったのです。
私はいつ、至上の輝きを見ることができるのでしょうか。
絶対至上の賢さを求める『望賢者』。
決して枯れない命を求める『望命者』。
強すぎるが故に死を求める『望死者』。
己が求めるモノのためにどんなことだってやる、けれどそれぞれの国の役に立っているため法で裁かれることはない“這い寄る無法地帯”。
私もその仲間に入れてほしく、どうすればいいか考えました。
考えた末、勝手に『望輝者』と名乗ることにしました。
これまでも勝手に『望◯者』と名乗るものはいましたが、すぐに行方をくらませてしまっていましたので……
きっと、向こうから来てくれるだろうと思ったのです。
「……お前か。『望輝者』を名乗る者は」
「ええっ、はい! お待ちしておりましたよっ♪」
城下町の路地裏を歩いていると、目論見通り彼はやって来ました。
ダンディな雰囲気の、獣人のおじ様。
「……なるほど。巨人族と人間族の合いの子。風の噂で聞いた巨人族の姫か」
「おや、私のことをご存知でしたのですね!」
「……悪いことは言わない。お前には身分がある。権力もある。オレたち『三望』に混ざろうとしたところでメリットはないだろう」
深いため息を吐きながら望死者は忠告してきました。
……ですが、それで『はいそうですか』という私ではありません。
「いいえ! 全世界に向けて『私はこれを望んでいる!』と発せられるのは素晴らしいではありませんか! それに、巨人族以外の国でも好きに動けるようになりますしっ♪」
今の姫という立場では人間の国で暴れようものなら国際問題、種族間戦争になるでしょう。
けれど、『三望』という立場なら人々は看過せざるを得ない。そんな暗黙の了解が世界に浸透していたのです。
「……俗物だな」
「望みを掲げるアナタがそれをいいますか?」
「……オレは違う。と言いたいが、他の二人のことを考えれば否定もできんな」
「それでそれでっ、どうすればアナタたちの仲間入りができますかっ!?」
「……はぁ。『三』という数字には特別な意味がある。人数を増やすわけにはいかん」
「では、入れ替わればいいのですねっ!?」
「物分かりがいいようで助かるよ。現『三望』の誰かの望みを果たせれば、お前は晴れて『三望』のメンバーになるだろう」
「うーん、そうですか……」
誰かの望みを果たす。そう言われて考えてみました。
まずは『望賢者』。
うーん、私はあまり賢さを欲していないので、ソレを果たすことは難しいでしょう。それに、賢さの果てには絶望しかないような気がしていますから。
次に『望命者』。
魔法を研究すれば私でも果たせそうですが……少々年月がかかりそうです。
しかし、私は今すぐに目的を果たしたいのですっ!!
「……ああ、それじゃあ。アナタの望みを果たすのが一番手っ取り早そうですっ♪」
「そうか、他の『三望』入りを目指す者たちも同じ選択をしていたよ……だが、それはもっとも愚かな選択だ」
「……ふぅん?」
「『死』を望むほどの強さがどのようなものか……よく考えたら上で、それでもオレと入れ替わろうなどと思うのなら──」
そう言って望死者は一枚の紙切れを私に手渡してきました。
「この場所に来るがいい。長くは滞在しないが、そうだな……明後日から一週間は間違いなく居るだ──」
「うふふっ、そんな勿体ぶったことは言わず、今すぐ始めましょうよっ♪」
私は我慢できず、望死者の手を取り、転移魔法を使いました。
「!?」
「なるほど、此処が今のアナタの住処ですか。ザ・古城といった感じですね」
「……このオレでも移動に二日かかる距離だぞ? 一度でそこまで転移可能な魔法が──そうか」
「あら、どうしました?」
「ふん、お前なら本当にこのオレを殺せるやも、と少し期待しているだけだ」
「まあっ、嬉しいっ♪」
「……名前を聞いておこう」
「スプレンドーレ。スプレンドーレ・テンポラーレと申しますっ♪」
「そうか。オレはラウフェン・ナハト。スプレンドーレよ、端から本気でいいな?」
「ええっ、勿論っ! そうでなくては意味がありませんっ! 死を望みたくなるほどの強さ、その輝きを……私に見せてッ!」
「輝き、か……フッ!!」
私は風魔法を身に纏い、望死者……ラウフェンさんに突撃しました。
そして、彼は私の突撃を受け止めて……
風魔法で切り裂かれることも厭わず、私の身体を捕まえて投げ飛ばしたのです。
「……ッ」
数十秒飛ばされながら、私は思考を巡らせていました。
巨人族ほどの力はないけれど、身体の使い方が今まで会った誰よりも上手く、ソレ故に威力がとんでもないことになっていると。
──ああっ、なんて素晴らしい輝きっ♪
「──まあ、当然のように戻って来るよな……って、なんでそんなピンピンしているんだ。城壁を突き破っただろうが」
「たしかに痛かったですが……笑って我慢できる範囲ですっ♪」
「……ハッ。頑丈な魔法使いだな! 初めて見るぞ!」
「私も、これほどまで期待を持てる方は初めてですよッ! もっと、もっとアナタの輝きが見たいッ!!」
お互いに笑顔をぶつけ合って。
これからどんな最高の闘いが待っているのだろうと期待しながら私は彼に向かって腕を伸ばしました。
「……おや、風の鎧はもういいのか?」
「うふふっ、防御効果がないのなら、もっと攻めに特化しようと思いましてねっ♪」
「ふん……何をやるつもりかわからんが、全力で来るがいいッ!」
「……ええっ♪」
「──なっ」
返事をした後、私は彼の右腕を吹き飛ばしました。
「……無属性魔法をくらうのは初めてですよね?」
「……無属性、だと?」
「どこにもない故に不可視。ふとした瞬間に現れる故、理論上は対処不可能な魔法……それが、私が作り上げた『無属性魔法』です」
「……ふ、はは。そうか。そう、か……!」
「さあ、この状況でもアナタは輝いてくれますよねっ! さあ、さあ……! ……あ?」
「いや、いい。もういいんだ……オレはようやく死ねるんだな」
「……たしかに殺すつもりですが、抗ってくださいよ。この絶望的な状況の中……輝いてくださいよッ!!」
「……ふふ、生憎だが、オレは『望死者』。死ねるのならお前の望みなどどうだっていい。傲慢だからこそ『三望』なのだ」
「……ッ!」
「……ほら、『三望』になりたいのだろう?」
「……わかりました。望み通り──死ね」
──私が晴れて『望輝者』となった記念すべき日。
それなのに、どうあっても心は満たせませんでした。
あの望死者が私の魔法をくらった一瞬で死を悟った。
この事実がどうしても恐ろしかったのです。
私はいつ、至上の輝きを見ることができるのでしょうか。