RECORD

Eno.134 タニムラ ミカゼの記録

 その日は、雨が降るから。

 農業をちょっとでもやると、そういうクセが付くんだろうな。窓を開けたままだと雨風が入って部屋のものを悪くするからと、鍵も掛かってない部屋に来た。
 変わらない、花の香り。誰も居ない部屋。雨は降り始め。窓を閉めて、一旦風を止める。

 通り雨だから、止んだらすぐ帰るつもりだった。それまで暇だから、やりたかった部屋の片付けでもしようと。
 パズルを立て掛けて、萎れかけの花束を持ってきた瓶に活けて。

 そして見つけた、自分の名前が書いてあった紙を。

「………」
 恐る恐る開いて、泣いた。
 細くて黒い字が、君を思い出すから。
 まるで親みたいに心配するんだから。


 アリィー。君が好きだったよ。間違いなく。

 君を思い出して泣くからさ。仲間と話も出来ないでいたら、メッセージボックスがパンクしてたよ。追加請求も来てたのに、どれもこれも俺の事を心配するような物ばっかでさ。
 笑ってしまったよ。

 あのさ、俺、来年20歳になるんだ。20歳になったら海外の戦場に行って、適当に戦って適当に死んで、家族に遺族金でも入ればいいかなと思ってたんだ。
 上司に、それを止めたいって伝えた。嫌がられるかなって思ったけど、理由を言う前に上司が「良かった」って言ってさ。本当は俺を戦場に行かせたくなかったって言うんだ。俺も一応傭兵なのに。

 それでさ、弟から連絡があってさ。兄さん、大学の合格率が過去最低って結果が出たらしくて。サボってたツケが出たんだろうな、父さんの怒鳴り声まで聞こえてきてた。
 オマケに妹を孕ませたらしくて。ああ、本当最悪。聞いた後ゲロ吐いた。

 アリィー、君を愛していたよ。
 だからこそ、自分が思ったより誰かに気にかけて貰ってたんだって、気付けたんだ。

 俺の周りって、案外悪くないかなって思ったんだ。

 誰かを好きになれるかは分からない。
 今は君との思い出でいっぱいだから。

 これも縋ってるのかな。
 居ない君に話し掛けるのも、やっぱりダメ?

 俺の心の整理なんだよ、付き合ってくれないか。

 口下手で、黙るのが先で、許されるのは睨むことだけ。
 試合中もそう。負けそうで、悔しくて、だけど相手の方が上手いだけだから、返す言葉もなくて。
 だから、睨んでた。負けたくない。タダで勝利はやらないって。

 大人げないだろ。
 それでいいのかな、アリィー。

「アリィー………」

 泣かなくなるまでは、時間がかかりそうなんだ。
 またこうして、一人で泣いてしまう。

 君が傍にいて、涙を拭いてほしい。なんて我儘は言えないから。
 泣き終わったら涙を拭いて、勝手に立ち上がるよ。

 窓を開けないといけないから。

 ほら、また風が花を揺らす。雨上がりの風は湿っぽいけど、土の匂いが混ざる。
 それも、嫌いじゃないよ。