RECORD

Eno.312 貴公子の記録

あいまにかいたてがみを、ひとつ

─あなたがそれと話した後に、この手紙はあなたの元に届くだろうか。
どうとどくかはわからない。いつもの席に置いたままだったのに気がついたのかもしれないし、あなたのいるところに誰かが届けてくれたのかもしれないし。
なんなら、届いていなくてもいい。届かなくてもいい。
届いたなら、破棄してもいい。

それを、あれが書いたという事実だけはある。
それから、封筒の中には。アミュレットのチャームに紐つけて、ペンダントにしてあるそれと一緒に。
一通の手紙が入っていることだろうか。





ジェノー様へ

これを今、私はあなたと戦う前に書いています。
戦闘が始まれば会話もできないでしょうし、終わった後に話すことができるとも限りません。
だからこそ、今この手紙をしたためています。

お渡ししたいものがありましたが、戦闘中には渡せませんし、先ほどは渡し損ねてしまいました。
ので、かの手紙に送付しておきます。
演奏と歌声と。朝に聞いてもらった、ほんのお礼です。
フラウィウスに伝わる魔術が込められたアミュレットで、持ち主を守ってくれる力があるそうです。

無法者たちがいる危ない世界だと聞きます。それをあなたは倒しているのだと。
あなたは強さと正義に自信を持っていますが、先ほど申し上げたように慢心をすることがある。
だからお守りを。あなたの身を守るためのお守りです。
効果のほどを私は知りませんが、気つけにでもなればいいと。
怪我しないといいなあと思います。

なにより、私の演奏を毎日聴いていただいたお礼です。
皆勤賞にはご褒美をあげなければいけません。
そういうふうになっています。偉いにはお礼をするのが常です。


私は、演奏を聴いていただけて、嬉しかったです。
毎日聞いて、単純な会話をする。

それだけでよかったです。
私がラッパを鳴らして、あなたが歌っている時。本当にとても穏やかで、いい時間でした。

私の大切を聞いてくれて、楽しんでくれてありがとうございました。

お付き合い、ありがとうございました。

それではお元気で。

あなたの生活に良いことがあることを私は望みます。






──差し出し主の名前はない。
あなたの友人と、書こうとしたあとだけがある。



「後悔しないといいました」



「ギロッチンではなくエクセキューターでしたが。約束は守っていただけましたね」



「レクイエムを歌ってもらう約束も、ちゃんと守ってもらえました」



「私にとって、いい人でした。約束も待ってもらえました」



「あなたにとっては冗談で」



「私は悪いロボだったかもしれませんが」




「私は悪いロボです。負けてます」





──だから、あなたがどうか勝ち続けますように。

──あなたが自分の正義を誇りと思うなら、一般的には悪烈な物であっても貫けますように。

──なにより、あなたの心の空虚が、いつか満たされますように。小瓶がいっぱいになるように。
それまでに倒れませんように。
ヒビが入ってるか、元から底がないか。そう言ったものかもしれないけれど。
空虚なのに笑ってるって、とってもつまらなくて、独りで、寂しいことだと思うから。


そんなの、得るべきではない悪人かもしれないが。
世間的に悪人であることはわかっている。悪辣で空虚。とんとたたいたって響かない。
思うところなく無駄な思いかもしれないが。

しかし、それからしたら、そうあって欲しい、って。
朝の演奏を、楽しみにしてくれていたことは本当だったと判断しているから。

だから、より良き方に。私にとっての良い人へ。

すごく感情が豊かみたいだなあって、悪態をつきながら。




「常勝を」



「…」




「……ありがとう」