RECORD
Eno.312 貴公子の記録
あいまにかいたてがみを、ひとつ
─あなたがそれと話した後に、この手紙はあなたの元に届くだろうか。
どうとどくかはわからない。いつもの席に置いたままだったのに気がついたのかもしれないし、あなたのいるところに誰かが届けてくれたのかもしれないし。
なんなら、届いていなくてもいい。届かなくてもいい。
届いたなら、破棄してもいい。
それを、あれが書いたという事実だけはある。
それから、封筒の中には。アミュレットのチャームに紐つけて、ペンダントにしてあるそれと一緒に。
一通の手紙が入っていることだろうか。
◆
ジェノー様へ
これを今、私はあなたと戦う前に書いています。
戦闘が始まれば会話もできないでしょうし、終わった後に話すことができるとも限りません。
だからこそ、今この手紙をしたためています。
お渡ししたいものがありましたが、戦闘中には渡せませんし、先ほどは渡し損ねてしまいました。
ので、かの手紙に送付しておきます。
演奏と歌声と。朝に聞いてもらった、ほんのお礼です。
フラウィウスに伝わる魔術が込められたアミュレットで、持ち主を守ってくれる力があるそうです。
無法者たちがいる危ない世界だと聞きます。それをあなたは倒しているのだと。
あなたは強さと正義に自信を持っていますが、先ほど申し上げたように慢心をすることがある。
だからお守りを。あなたの身を守るためのお守りです。
効果のほどを私は知りませんが、気つけにでもなればいいと。
怪我しないといいなあと思います。
なにより、私の演奏を毎日聴いていただいたお礼です。
皆勤賞にはご褒美をあげなければいけません。
そういうふうになっています。偉いにはお礼をするのが常です。
私は、演奏を聴いていただけて、嬉しかったです。
毎日聞いて、単純な会話をする。
それだけでよかったです。
私がラッパを鳴らして、あなたが歌っている時。本当にとても穏やかで、いい時間でした。
私の大切を聞いてくれて、楽しんでくれてありがとうございました。
お付き合い、ありがとうございました。
それではお元気で。
あなたの生活に良いことがあることを私は望みます。
──差し出し主の名前はない。
あなたの友人と、書こうとしたあとだけがある。
◆
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──だから、あなたがどうか勝ち続けますように。
──あなたが自分の正義を誇りと思うなら、一般的には悪烈な物であっても貫けますように。
──なにより、あなたの心の空虚が、いつか満たされますように。小瓶がいっぱいになるように。
それまでに倒れませんように。
ヒビが入ってるか、元から底がないか。そう言ったものかもしれないけれど。
空虚なのに笑ってるって、とってもつまらなくて、独りで、寂しいことだと思うから。
そんなの、得るべきではない悪人かもしれないが。
世間的に悪人であることはわかっている。悪辣で空虚。とんとたたいたって響かない。
思うところなく無駄な思いかもしれないが。
しかし、それからしたら、そうあって欲しい、って。
朝の演奏を、楽しみにしてくれていたことは本当だったと判断しているから。
だから、より良き方に。私にとっての良い人へ。
すごく感情が豊かみたいだなあって、悪態をつきながら。
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どうとどくかはわからない。いつもの席に置いたままだったのに気がついたのかもしれないし、あなたのいるところに誰かが届けてくれたのかもしれないし。
なんなら、届いていなくてもいい。届かなくてもいい。
届いたなら、破棄してもいい。
それを、あれが書いたという事実だけはある。
それから、封筒の中には。アミュレットのチャームに紐つけて、ペンダントにしてあるそれと一緒に。
一通の手紙が入っていることだろうか。
◆
ジェノー様へ
これを今、私はあなたと戦う前に書いています。
戦闘が始まれば会話もできないでしょうし、終わった後に話すことができるとも限りません。
だからこそ、今この手紙をしたためています。
お渡ししたいものがありましたが、戦闘中には渡せませんし、先ほどは渡し損ねてしまいました。
ので、かの手紙に送付しておきます。
演奏と歌声と。朝に聞いてもらった、ほんのお礼です。
フラウィウスに伝わる魔術が込められたアミュレットで、持ち主を守ってくれる力があるそうです。
無法者たちがいる危ない世界だと聞きます。それをあなたは倒しているのだと。
あなたは強さと正義に自信を持っていますが、先ほど申し上げたように慢心をすることがある。
だからお守りを。あなたの身を守るためのお守りです。
効果のほどを私は知りませんが、気つけにでもなればいいと。
怪我しないといいなあと思います。
なにより、私の演奏を毎日聴いていただいたお礼です。
皆勤賞にはご褒美をあげなければいけません。
そういうふうになっています。偉いにはお礼をするのが常です。
私は、演奏を聴いていただけて、嬉しかったです。
毎日聞いて、単純な会話をする。
それだけでよかったです。
私がラッパを鳴らして、あなたが歌っている時。本当にとても穏やかで、いい時間でした。
私の大切を聞いてくれて、楽しんでくれてありがとうございました。
お付き合い、ありがとうございました。
それではお元気で。
あなたの生活に良いことがあることを私は望みます。
──差し出し主の名前はない。
あなたの友人と、書こうとしたあとだけがある。
◆
「後悔しないといいました」
「ギロッチンではなくエクセキューターでしたが。約束は守っていただけましたね」
「レクイエムを歌ってもらう約束も、ちゃんと守ってもらえました」
「私にとって、いい人でした。約束も待ってもらえました」
「あなたにとっては冗談で」
「私は悪いロボだったかもしれませんが」
「私は悪いロボです。負けてます」
──だから、あなたがどうか勝ち続けますように。
──あなたが自分の正義を誇りと思うなら、一般的には悪烈な物であっても貫けますように。
──なにより、あなたの心の空虚が、いつか満たされますように。小瓶がいっぱいになるように。
それまでに倒れませんように。
ヒビが入ってるか、元から底がないか。そう言ったものかもしれないけれど。
空虚なのに笑ってるって、とってもつまらなくて、独りで、寂しいことだと思うから。
そんなの、得るべきではない悪人かもしれないが。
世間的に悪人であることはわかっている。悪辣で空虚。とんとたたいたって響かない。
思うところなく無駄な思いかもしれないが。
しかし、それからしたら、そうあって欲しい、って。
朝の演奏を、楽しみにしてくれていたことは本当だったと判断しているから。
だから、より良き方に。私にとっての良い人へ。
すごく感情が豊かみたいだなあって、悪態をつきながら。
「常勝を」
「…」

「……ありがとう」