RECORD
Eno.470 ████の記録
俺が家に金を入れ始めたあたりからちょっと家族関係がおかしくなっていった。
親は金遣いが荒くなった。親父は知らねえ間に仕事クビになってたし。母親は浮気してたっぽい。知らんけど。
他人とのふれあいを欲して仕事をすると金が舞い込んでくるが、
金を稼ぐのはしんどいし、稼いだ分だけ他の何かが壊れていく。
自分でもよく分からなくなって来ていた。
正直ちょっとしんどくなってきてたんだよな。
そりゃそうか。5,6個のバイトの掛け持ちはどう考えてもキャパ超えてる。死ぬ。
でもやろうと思えばできてしまうので、暗中模索のまま仕事ばっかりやってた時期だ。
そのうち仕事優先して俺も学校にすら行かなくなっていった。
そんな折に聞かれたボスの突拍子ない提案に、俺は未だに保留のままキープして貰ってる。
ボスに聞かれた「これからどうしたい」という問いに、俺は未だに答えを持っちゃいない。
俺は他人との関わりがイヤだとは思えなかったし、
バイトという浅くて薄いつながりでも俺にとってはかけがえのないモノだった。
たとえすぐに忘れてしまうとしても。
俺は支離滅裂なままボスに現状を伝え、ボスもまた意味不明な返答をした。
やけに小難しい話の半分は聞き流したが、もう半分は俺にとってひどく魅力的な提案だった。
「君にあげられるのは二つだ」
「何と何だよ」
「一つは仕事に見合った報酬。君の能力は正直言って傑物のそれだ。
我々はそれが欲しい。欲しくてたまらない。我々は君に労働対価を用意しよう」
「もう一つは」
「もう一つは仲間だよ、ダウンハイヴ。君に終わらない職場環境を提供する」
「へえ……」
いいなそれ。乗った。
かくして俺は手に入れた。
決して潰れない職場を、食いっぱぐれすることない資金源の環境を。
終身雇用で俺が離れない限りは死ぬまで属することのできる、誰も忘れることのない同僚を。
けれどそう上手くはいかないのが人生だ。
ZACの中でポカやって死んだ奴が居て、葬式の時までは確かに覚えていたはずなのに。
ある日突然それが分からなくなった。
俺は墓石に刻まれた名に、見覚えも聞き馴染みもなかった。悲しみも感慨も湧いてきやしない。
愕然とした。茫然自失。あっだめだ。この状況下でも忘れるんだ俺。どうすりゃいいんだよ。
そこからは少しずつ歪みが現れ始めた。
ZACは言うなれば派遣会社だから、当然仕事として行った先でも縁ができる。
人間は欲がでてきてしまうもので、どうしたってその先を求め始めてしまう。
死なない限りは忘れない仲間が出来たから余計に。
いや、死んだら忘れてしまうという事実が発覚したから余計にか。
ZACに限らず他の奴らの事も覚えておけないのかな……なんて。
考え始めたらもう歯止めが利かなくなっていた。
記憶を残しておきたい。
会って話して仕事をして、そうして時間を共に過ごした同僚を忘れたくないと願って何が悪いんだ。
ボーッと生きてるような顔してるから勘違いされがちだが、
俺は別に人間が嫌いなわけでも興味がないわけでもない。
人と話すのは好きだし、言葉を交わしてコミュニケーションを取るのが苦痛ってワケじゃない。
むしろ最近は楽しいとすら感じてる。
ただ覚えておけないから自然と希薄になってるだけなんだ。
「新しい仕事が来たよ、ダウンハイヴ」
「ああ」
俺は忘却の克服を諦めきれないまま、日々を怠惰に、緩慢に過ごしている。
いつか誰かを覚えられますように。
仕事の同僚や上司、依頼人の関係ではなく、よき隣人として。
アムネシアの回顧録02
俺が家に金を入れ始めたあたりからちょっと家族関係がおかしくなっていった。
親は金遣いが荒くなった。親父は知らねえ間に仕事クビになってたし。母親は浮気してたっぽい。知らんけど。
他人とのふれあいを欲して仕事をすると金が舞い込んでくるが、
金を稼ぐのはしんどいし、稼いだ分だけ他の何かが壊れていく。
自分でもよく分からなくなって来ていた。
正直ちょっとしんどくなってきてたんだよな。
そりゃそうか。5,6個のバイトの掛け持ちはどう考えてもキャパ超えてる。死ぬ。
でもやろうと思えばできてしまうので、暗中模索のまま仕事ばっかりやってた時期だ。
そのうち仕事優先して俺も学校にすら行かなくなっていった。
そんな折に聞かれたボスの突拍子ない提案に、俺は未だに保留のままキープして貰ってる。
ボスに聞かれた「これからどうしたい」という問いに、俺は未だに答えを持っちゃいない。
俺は他人との関わりがイヤだとは思えなかったし、
バイトという浅くて薄いつながりでも俺にとってはかけがえのないモノだった。
たとえすぐに忘れてしまうとしても。
俺は支離滅裂なままボスに現状を伝え、ボスもまた意味不明な返答をした。
やけに小難しい話の半分は聞き流したが、もう半分は俺にとってひどく魅力的な提案だった。
「君にあげられるのは二つだ」
「何と何だよ」
「一つは仕事に見合った報酬。君の能力は正直言って傑物のそれだ。
我々はそれが欲しい。欲しくてたまらない。我々は君に労働対価を用意しよう」
「もう一つは」
「もう一つは仲間だよ、ダウンハイヴ。君に終わらない職場環境を提供する」
「へえ……」
いいなそれ。乗った。
かくして俺は手に入れた。
決して潰れない職場を、食いっぱぐれすることない資金源の環境を。
終身雇用で俺が離れない限りは死ぬまで属することのできる、誰も忘れることのない同僚を。
けれどそう上手くはいかないのが人生だ。
ZACの中でポカやって死んだ奴が居て、葬式の時までは確かに覚えていたはずなのに。
ある日突然それが分からなくなった。
俺は墓石に刻まれた名に、見覚えも聞き馴染みもなかった。悲しみも感慨も湧いてきやしない。
愕然とした。茫然自失。あっだめだ。この状況下でも忘れるんだ俺。どうすりゃいいんだよ。
そこからは少しずつ歪みが現れ始めた。
ZACは言うなれば派遣会社だから、当然仕事として行った先でも縁ができる。
人間は欲がでてきてしまうもので、どうしたってその先を求め始めてしまう。
死なない限りは忘れない仲間が出来たから余計に。
いや、死んだら忘れてしまうという事実が発覚したから余計にか。
ZACに限らず他の奴らの事も覚えておけないのかな……なんて。
考え始めたらもう歯止めが利かなくなっていた。
記憶を残しておきたい。
会って話して仕事をして、そうして時間を共に過ごした同僚を忘れたくないと願って何が悪いんだ。
ボーッと生きてるような顔してるから勘違いされがちだが、
俺は別に人間が嫌いなわけでも興味がないわけでもない。
人と話すのは好きだし、言葉を交わしてコミュニケーションを取るのが苦痛ってワケじゃない。
むしろ最近は楽しいとすら感じてる。
ただ覚えておけないから自然と希薄になってるだけなんだ。
「新しい仕事が来たよ、ダウンハイヴ」
「ああ」
俺は忘却の克服を諦めきれないまま、日々を怠惰に、緩慢に過ごしている。
いつか誰かを覚えられますように。
仕事の同僚や上司、依頼人の関係ではなく、よき隣人として。