RECORD
Eno.470 ████の記録
ボスから来た新しい仕事はマジで頭おかしなったんかって聞きたくなるくらい突拍子無いモノだった。
人間同士で殺し合いさせて収益化してるって倫理観オワオワリだろ。現代日本じゃねえのかよ。
「現代日本じゃねーって。フラウィウスだよ。異世界」
「最近流行りのトラックで轢かれて転生する奴か?」
「違うけど違くなくて~」
同僚の非現実が言うにはこことは違う世界の話らしい。
違う世界ってなに? ヤバない?
漫画やアニメでも昨今そんなことねーぞって言ってやりたかったが、仕事は仕事だ。
それに俺の慣れはまあまあ早いので「まあそういうこともあるよね」でとりあえず着地した。
「そんでさあ、記憶転移ってのがあるらしいんだよ」
「んだそれ」
「聞いたことない? 臓器移植された人の嗜好とか性格が変わっちゃう奴」
「知らね」
うそ~。知ってる。何かのドキュメンタリー番組で見た気がする。
臓器移植に伴って提供者の記憶の一部が受給者に移るとされる現象のこと。
つってもまだ科学的に証明されたわけではなく、人格は心臓に宿るという古来の俗説に引っ張られた可能性や
「こうあってほしい」と望まれた結果生まれた虚偽記憶の可能性もあるんだとか。
ただ、「潜在的記憶」と「顕在的記憶」が存在する以上、俺はこの記憶転移に少しだけ信憑性を感じている。
顕在的記憶とは反復学習によって覚えた意味記憶。
思い出としての記憶であるエピソード記憶など、一般的な記憶を指す方だ。
別名、陳述的記憶とも呼ぶんだとか。
対して潜在的記憶は無意識でも反応してしまうような身体反射、手続的記憶に関するもの。
特に意識しなくても、体が勝手に覚える方の記憶。
つまるところ臓器移植による記憶転移は、この本人が意識していない潜在的記憶として
肉体に溜められているものが移されたことで表面化したんじゃないかってコトだ。
「で、それがなに」
「フラウィウスって死んでも、それが巻き戻せるんだってさ!」
「うんうん」
「死ぬほどの経験を何度も刷り込ませれば、さすがにそれに紐づいて人も記憶できるんじゃないかってボスが」
「うん……」
倫理観終わってんな……とは思ったが、ボスの考えは一理あるものだった。
ぶっちゃけ試さないで終わるにはもったいなさすぎる気もする。
頭が駄目なら身体で覚えろって奴だな。
「肉体に記憶があるならそれをアテにしようって?」
「そう。幸いにしてお客さんはモノマキアのトップ総なめをお求めだからね。
仕事も終わって体質も克服して一石二鳥でしょ?」
「そう上手くいくかねえ。擦り切れるほど身体に覚えさせるってそれどんくらいだよ」
「わかんね~。万回戦えばさすがに覚えんじゃね?」
「そんなに戦ったら死んじまうわバカ」
「死なないってェ~!生き返るんだよぅ!巻き戻り巻き戻り!」
「……巻き戻ったらせっかく覚えた記憶も全部戻んないか?」
「知らね~」
知らねえじゃなくてえ。まあいいか。やるだけの価値はあるだろう。物は試しだ。
俺は依頼を受ける事にした。
「やる」
「いいよー。そんじゃ担当決まり!あ、でもこれ依頼失敗時の違約金、億単位だけど大丈夫そ?」
「依頼失敗? 誰に物言ってんだよ、非現実」
「あは。そうだったそうだった、受理した仕事は必ず終わらせる───それがアンタだったね。
期待してるよお~!頼んだからねダウンハイヴ。モノマキアのてっぺんよろしく!」
「あいよ、任された」
結果から言うとぜーんぜん楽な仕事じゃなかったし、当初予定していた記録は倍になってしまった。
猛者だらけで息つく暇もありゃしねえ。正直失敗したと思った。
うまみのある仕事だと思って蓋開けて見りゃ難易度マックスじゃねえか。騙された。
いくら付加価値として俺の体質が治る見込みがあったとはいえど、こんなんだったら受けない方がマシだとすら思った。
全身痛いし死ぬし、来る日も来る日もあてどもなく記録を伸ばすヒリついたレース続き。
神経がすり減っちまうわ。むしろ頭にも身体にも逆効果なんじゃねえのかこれ。
もう一つ誤算があった。
俺にとってシーズンに参加するすべての闘技者が同僚扱いになったことだ。
一ヶ月の間、俺にとっては常に記憶に残り続ける奴等と連日のバカ騒ぎ。
居心地が悪いはずがない。そもそも俺の頭は仕事を共にする奴等を仲間として認識するシステムになってる。
だから───……そう、こんなに離れがたくなるとは思ってなかった。
明確な誤算だった。
口ではいくらでも帰りてえ日本帰るもうヤダとは言っていたが、そんなのブラフに過ぎない。
だって仕事が終わらなければ俺はいつまでも覚えていられるだろう。
気のいい連中がいっぱいいる。
酒を酌み交わして、くだらない話をして、溢れかえるようなアルコール浸りの夜を酔いと共に過ごした。
あーあ、シーズン終わんなきゃいいのにな。忘れたくないな。
とはいえ、それがどうにもならないと俺は分かっている。知っている。
仕事はいつか終わるもので、帰らないといけない。
俺の居場所はZACにある。
雇用関係を結んだ同士でしか記憶できないあの場所がたったひとつ、唯一覚えていられる俺の居場所だと分かっている。
だから結局タイムリミットは一ヶ月だけだったんだ。
アムネシアの回顧録03
ボスから来た新しい仕事はマジで頭おかしなったんかって聞きたくなるくらい突拍子無いモノだった。
人間同士で殺し合いさせて収益化してるって倫理観オワオワリだろ。現代日本じゃねえのかよ。
「現代日本じゃねーって。フラウィウスだよ。異世界」
「最近流行りのトラックで轢かれて転生する奴か?」
「違うけど違くなくて~」
同僚の非現実が言うにはこことは違う世界の話らしい。
違う世界ってなに? ヤバない?
漫画やアニメでも昨今そんなことねーぞって言ってやりたかったが、仕事は仕事だ。
それに俺の慣れはまあまあ早いので「まあそういうこともあるよね」でとりあえず着地した。
「そんでさあ、記憶転移ってのがあるらしいんだよ」
「んだそれ」
「聞いたことない? 臓器移植された人の嗜好とか性格が変わっちゃう奴」
「知らね」
うそ~。知ってる。何かのドキュメンタリー番組で見た気がする。
臓器移植に伴って提供者の記憶の一部が受給者に移るとされる現象のこと。
つってもまだ科学的に証明されたわけではなく、人格は心臓に宿るという古来の俗説に引っ張られた可能性や
「こうあってほしい」と望まれた結果生まれた虚偽記憶の可能性もあるんだとか。
ただ、「潜在的記憶」と「顕在的記憶」が存在する以上、俺はこの記憶転移に少しだけ信憑性を感じている。
顕在的記憶とは反復学習によって覚えた意味記憶。
思い出としての記憶であるエピソード記憶など、一般的な記憶を指す方だ。
別名、陳述的記憶とも呼ぶんだとか。
対して潜在的記憶は無意識でも反応してしまうような身体反射、手続的記憶に関するもの。
特に意識しなくても、体が勝手に覚える方の記憶。
つまるところ臓器移植による記憶転移は、この本人が意識していない潜在的記憶として
肉体に溜められているものが移されたことで表面化したんじゃないかってコトだ。
「で、それがなに」
「フラウィウスって死んでも、それが巻き戻せるんだってさ!」
「うんうん」
「死ぬほどの経験を何度も刷り込ませれば、さすがにそれに紐づいて人も記憶できるんじゃないかってボスが」
「うん……」
倫理観終わってんな……とは思ったが、ボスの考えは一理あるものだった。
ぶっちゃけ試さないで終わるにはもったいなさすぎる気もする。
頭が駄目なら身体で覚えろって奴だな。
「肉体に記憶があるならそれをアテにしようって?」
「そう。幸いにしてお客さんはモノマキアのトップ総なめをお求めだからね。
仕事も終わって体質も克服して一石二鳥でしょ?」
「そう上手くいくかねえ。擦り切れるほど身体に覚えさせるってそれどんくらいだよ」
「わかんね~。万回戦えばさすがに覚えんじゃね?」
「そんなに戦ったら死んじまうわバカ」
「死なないってェ~!生き返るんだよぅ!巻き戻り巻き戻り!」
「……巻き戻ったらせっかく覚えた記憶も全部戻んないか?」
「知らね~」
知らねえじゃなくてえ。まあいいか。やるだけの価値はあるだろう。物は試しだ。
俺は依頼を受ける事にした。
「やる」
「いいよー。そんじゃ担当決まり!あ、でもこれ依頼失敗時の違約金、億単位だけど大丈夫そ?」
「依頼失敗? 誰に物言ってんだよ、非現実」
「あは。そうだったそうだった、受理した仕事は必ず終わらせる───それがアンタだったね。
期待してるよお~!頼んだからねダウンハイヴ。モノマキアのてっぺんよろしく!」
「あいよ、任された」
結果から言うとぜーんぜん楽な仕事じゃなかったし、当初予定していた記録は倍になってしまった。
猛者だらけで息つく暇もありゃしねえ。正直失敗したと思った。
うまみのある仕事だと思って蓋開けて見りゃ難易度マックスじゃねえか。騙された。
いくら付加価値として俺の体質が治る見込みがあったとはいえど、こんなんだったら受けない方がマシだとすら思った。
全身痛いし死ぬし、来る日も来る日もあてどもなく記録を伸ばすヒリついたレース続き。
神経がすり減っちまうわ。むしろ頭にも身体にも逆効果なんじゃねえのかこれ。
もう一つ誤算があった。
俺にとってシーズンに参加するすべての闘技者が同僚扱いになったことだ。
一ヶ月の間、俺にとっては常に記憶に残り続ける奴等と連日のバカ騒ぎ。
居心地が悪いはずがない。そもそも俺の頭は仕事を共にする奴等を仲間として認識するシステムになってる。
だから───……そう、こんなに離れがたくなるとは思ってなかった。
明確な誤算だった。
口ではいくらでも帰りてえ日本帰るもうヤダとは言っていたが、そんなのブラフに過ぎない。
だって仕事が終わらなければ俺はいつまでも覚えていられるだろう。
気のいい連中がいっぱいいる。
酒を酌み交わして、くだらない話をして、溢れかえるようなアルコール浸りの夜を酔いと共に過ごした。
あーあ、シーズン終わんなきゃいいのにな。忘れたくないな。
とはいえ、それがどうにもならないと俺は分かっている。知っている。
仕事はいつか終わるもので、帰らないといけない。
俺の居場所はZACにある。
雇用関係を結んだ同士でしか記憶できないあの場所がたったひとつ、唯一覚えていられる俺の居場所だと分かっている。
だから結局タイムリミットは一ヶ月だけだったんだ。