RECORD

Eno.232 シャルティオ&キィランの記録

或る従者の記録

 
 生まれは不明、育ちは孤児院とスラム。
 けして良いとは言えぬ環境の中で、
 自分を隠す術を学んだ。

 暴力に殺されかけたから、暴力を学んだ。
 まともな人間に見えるよう、
 上の階級の人たちの言葉を聞いて盗んだ。

 暴力を覚えても、それを見せることは基本的には出来ない。
 自分を殺すことに慣れなければ、殺されてしまう運命だ。
 仮面を被っていた、昔からずっと。
 ありのままでいることなんて、とうに諦めている。

 諦めているのだ。
 だから、ありのままでいられる主君を、
 フェンドリーゼを、眩しいと思っていた。


「…………」



 従者は昨晩の私闘を思い出す。
 徒手空拳と鉄パイプ、あの場所で得た戦闘手段。
 華やかな闘い方なんて似合わない。頼れるのは己の拳とその辺の武器だけ。
 
 王子様の従者なのだから、
 ステッキや剣など使う方が、綺麗なのだろうけれど。

 異世界だから関係あるまいと、久しぶりに“自分”を出した。
 闘いの時だけ、仮面を外した。


「まぁ、たまにはなァ、
 そんな日があっても……別に……」



 何よりも大事なのは己の主君、それは変わらねども。
 ここでなら、と少しの期待を抱き、押し寄せる諦観を拒絶した。


「……夢ぐらい、見させてくださいよぉ」