RECORD

Eno.105 マリン・ペリドットの記録

『カンラン石の少女』


「――――へぇ、じゃあ?お前が子供の血の代わりになろうってのかい?
 いいねえ、いいねえ?不死様に逆らわない方が良い、そうだよねえ、あっはは!」


私は、孤児だ。

      蛮族と人族の領土境界線にある城塞都市の生まれにして、

        両親を戦いで亡くした孤児。


「……この子達には、手を出さないで、くだ、さ、」

だから、目の前の不死様ヴァンパイアに敵う訳はない。
蛮族側でも人族側でもない、不死者達がこの街を保護し、そして……。
それが当たり前になった時代、私達みたいな孤児は、子供の血を好む彼らの血袋に過ぎない。


「ああ、子羊達には手を出さない。約束する―――だけど、」



アンタペリドット、お前だけは別だよ」

手が伸びる。とっさに身を翻したけれど間に合わない。

……私は、他の孤児達を守る為に自分から、不死様に己自身を捧げに行った。
少なくとも、私が『涸れる』までは満足してくれる。だから、――――――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「………、」



目を覚ます。喧騒よりも先に、酒場で知り合ったお姉さんの膝元が視えている。
朝からずっと眠りっぱなしだった。……足、痺れてないかなあ?


「おは、よう?」




『おはよう~、ペリちゃん!かんぱ~い!』


酒場の喧騒を、耳が認識する頃にようやく脳が活動を再開してくれる。
ぽわぽわしていたのだろう、頭をぽんぽん撫でられていた気がする。

『カンラン石の少女』。自分の目の色が緑色で、カンラン石……つまりはペリドットに
色味が似ている事から名付けられた名だ。
自分が生まれ育ち、かつて居たとある城塞都市での呼ばれ方でもあった。
……宝石のような目は、時として美術的価値を持ちかねない。だからある日、両親は
自分に『色眼鏡』をプレゼントしてくれた。満月のような色味の黄色の色硝子のレンズ。

ここ、フラウィウスを訪れてからは色眼鏡を外す事が多いが、
それはこの『カンラン石』を取ろうとする輩がいないからだ。


「だから、私は道化で居られるのかも、ね?」