RECORD

Eno.159 雪椿乙女の記録

口紅探し 一


真っ赤な口紅が欲しい。
私の白い肌を飾ってくれる、綺麗な真っ赤な口紅が欲しいの。
あの色じゃない、この色でもない。売ってる紅じゃ満足できない。
きっとある筈、どこかにある筈なの。
私を一等綺麗にしてくれる、そんな真紅が…





深い青の髪の毛に、黄色い目をした男の子。名前は…ええと、なんだったかしら。
あまりお喋りは好きではないみたい。話しかけても知らんぷりされてしまった。
でも外側の相性は別にいいの。大事なのは中身だもの。
包丁に散った赤は鮮やかだった。ほんの少しだけ変わった香りがしたけれど…これは桃の香り?
ただの人ではないものも多いところだから、きっと紅も私の知ってるものとは異なったりするのね。
唇の上での滑りも伸びやかで上々。健康的な生活をしているのかしら。素敵ね。
発色も悪くない。鮮やかな赤色は私の肌の色と相性がいいと思うの。

…ああでも、これじゃない。

なんとなく感じる嫌悪感。この子の中には私を害する何かがある。
勿論、毒にはなり得ないとても弱々しい何かだけれど…そんなものを唇に塗ってはいられない。
それに私に刺された後の顔…化物を見るような目をされるのはちょっと困ってしまうわ。
お淑やかでいたいのに、綺麗な女でいたいのに、そんな顔されちゃったら愉しくなっちゃうでしょう?
…だからあの子はダメ。あの子じゃ私を飾れない。他の子にしなくちゃ。




一等綺麗な女になりたいの。誰もが息を呑んで振り返るような。
雪の中で密かに咲いて枯れるだけの、椿の花になんかなりたくないの。
艶のある黒い髪。雪のように白い肌。
ああ、あとはほら、血のように真っ赤な唇さえあれば…
私、きっと綺麗に咲けるでしょう?