RECORD

Eno.637 ナルシテート・スラミガル・ビビの記録

幼馴染

それから30年と少し経った。
只人ヒューマンであれば絶望するような年月である。
ナルシテの竜人ドラゴニュートとしての教育は、本来ならもう少し早く終わるはずだったのだが、中途に戦争と迷宮信仰者ダンジョンカルト達による故意の迷宮ダンジョン内での過剰繁殖暴走スタンピード事件の収束が挟まったせいで大幅に遅れを取った。
竜人ドラゴニュート竜人ドラゴニュートにしか、実技を教われない。
座学はともかく、他の種に炉と呼ばれる特殊な器官を持つものはそう居ない。
竜に変身できるのも竜人ドラゴニュートだけであり、ナルシテの住まう国『ガラン』にいる竜人ドラゴニュートは計四人。
どうしたって問題が起きると人手が足りなくなるのは仕方の無いことだった。

それでも、彼らは大して焦らなかった。
これがきかん坊の荒くれならば兎も角ナルシテは大人しく、驕る様子もなかった。学ぶ意欲も高く、長命種らしい気長さで、事を教えようとする竜人ドラゴニュート達の方がせっつかれて怒られていたほどだった。
故に、当初の予定より大幅にずれ倒したとは言えど無事にナルシテは竜人ドラゴニュートとして国の認可を受け、正しく幼馴染の元に変えることができたのである。

帰ってきた村は、より何だか寂しさを増した。
歓迎はされたような、されないような。一応戻ると伝えてはいたが、村長からは刺激しないで欲しい、と頼まれるだけだった。
色々と考えて、村の寄付と食料だけを持って渡して────幼馴染を見たら、すぐ帰る気だった。
流石に耳長エルフと言えど30年だ。いくら耳長エルフが長命の生き物としても、下手をしなくたって愛想が尽きる。
手紙のやり取りを最初はしていたけども、戦争に入ってからはろくに返せてもいなかったし。
結婚していたとしてもおかしくは無かったから。
だから。
彼女が自らナルシテが来ると聞き、特攻してくるまでナルシテは彼女に会う勇気が出てこなかった。

「ちょっと遅すぎるんじゃない?」

なんて言いながら、道を歩いて躊躇うナルシテの尻尾を掴んだ彼女は昔よりもうんと綺麗になっていた。
見た目の年齢なら20代。緑髪と、緑の目のジゼルは頬を赤らめながら、その日一番綺麗に化粧をして、数年前流行りのワンピースを引きずり出してナルシテを捕まえた。

「いや、あわ……すいません、ええ、あの」
腐った大樹エルフババアになる所だった!
君を待つ間このワタシが何人振ったと思う?」
「え」
「9人だ!!旅人と村の男合わせてだぞ!」

真っ赤になっていたのはきっと夕焼けのせいではなく。

「責任はとらなくていい。返事が欲しい」

ただ、恋に焦がれて待ち続けた乙女がそこにいた。
ただ美しかった。清らかで、酷く健気で。
ナルシテもまた、顔を赤く染めながら、未練たらしく小さな指輪を取りだした。

「ジゼル、どうか私と結婚してくださ「その言葉を三十年待ってたんだよ!」……ああ、うん、アッハッハ……」

そうして二人は結婚した。
茜色の空、素朴な村の真ん中で、竜人ドラゴニュートという上位種あるまじき、穏やかな婚姻を結ぶのである。

その数年後、子供が出来にくい種族であるはずが、一人の子宝を得る。
名をカルラと言う、ナルシテにどこかよく似た子供だった。