RECORD

Eno.637 ナルシテート・スラミガル・ビビの記録

※注意※

※ここから先はショッキングな描写が含まれます。ご留意ください。※

ナルシテは本当なら、もっと早くに帰宅する予定だったのだが仕事と雑事が重なり、帰ってきたのはその日の早朝だった。
随分と静かな早朝だったのを覚えている。
娘の結婚式前日。身内だけでパーティをする約束だった。
細やかな祝いに娘が欲しいと言っていた櫛と、花を買って帰っていった。
朝だから、みんなで朝ご飯を食べている時に渡そうかな、なんて思って。
穏やかな朝だと信じていた。玄関を開けるまで、そう。ずっと。ずっと。
「ただいま」
返事がないのが当たり前の、朝に、きっとまだ眠っているだろう家族達にそう呟いて。そして。

「は?」



そこには。

■にかけている。


■にかけている。






……。


■んでいる。



人としての、女としての、生き物としての。
尊厳と、命を踏みにじられた彼女たちの。

……。

頭の中が真っ白になった。
なんて言ったのかは覚えていない。
ただ、駆け寄った妻は、ナルシテの腕の中で息を引き取った。
娘はそもそも一目で■んでいるとわかる姿だった。
亜人を診れる医師と、回復魔法を使える聖職者にすぐに連絡を取ったが、間に合わなかった。
マルチェラだけはなんとか一命をとりとめたが、精神に著しい傷を負い、錯乱状態が目立ち、長期の入院を余儀なくされた。
犯人は複数であり、現場の状況や魔力残滓から、場慣れした野盗か探索者であると考えられる。
手引きをしたのは、娘の花婿であり、こちらも行方が杳として知れなくなっていた。
騎士団や国はナルシテの為に厳格な捜査を約束してくれたが、それはちいともナルシテの心に希望も怒りも灯さなかった。
悲鳴が。苦痛が。悲しみが。ただ嵐のようにナルシテの心を打ち据えていった。

「わたしを綺麗な体にもどして!!」

見まいに向かうマルチェラはすっかりと会話ができなくなってしまって。
ナルシテに縋りながら、マルチェラはただ気が触れたように只管にそれだけを祈っていた。
只管にそれだけ叫んでいた。
只管にそれだけ願っていた。
只管にそれだけ。
それだけ。
それだけ。


……。

マルチェラは一年と持たずに■■した。

ナルシテの変質はそこから始まった。彼が清らかな乙女を固執するようになったのは、これがはじまりだった。