RECORD
Eno.66 劫波のプリムスピルスの記録


あれは三十年……いや 二百年前だったろうか?
私は偶然同じ"八尾比丘尼"と出会い 交わった
睦言の代わりに言ったのは 我々にとっての成れの果て 幽鬼についてだった
幽鬼とは 死ぬに死ねぬ不老不死の者が行きつく果て
精神が擦り切れ果て 自我のみを喪い 戦いに明け暮れるだけの怪物だ
私は一度だけ この幽鬼と戦った事があった
何度致命傷を与え 受けても 決して戦闘が終わる事はない
些か疲弊を覚えた私は そいつを奈落の底に蹴落とし その隙に逃げ果せた



その八尾比丘尼は 当然のように答えた



私はこの女と ついぞ意見が合わなかった
幽鬼になることは確かにおそろしい
けれどそれを避けるためとはいえ この手で須臾を手折るなど……到底できないことだ

だのに私は その言葉が耳から離れない
甘い幸福に身を浸せば浸す程
シュガーレスの笑顔を見て癒される都度 脳裏で 囁いてくる


その言葉が 何度も 何度も ……何度も────
ENo.66 劫波のプリムスピルス To be continued...
マーメルクリアの独白

「──"幽鬼" というものを知っているか?」

「……噂程度じゃがの。無論、知っておるわい」
あれは三十年……いや 二百年前だったろうか?
私は偶然同じ"八尾比丘尼"と出会い 交わった
睦言の代わりに言ったのは 我々にとっての成れの果て 幽鬼についてだった
幽鬼とは 死ぬに死ねぬ不老不死の者が行きつく果て
精神が擦り切れ果て 自我のみを喪い 戦いに明け暮れるだけの怪物だ
私は一度だけ この幽鬼と戦った事があった
何度致命傷を与え 受けても 決して戦闘が終わる事はない
些か疲弊を覚えた私は そいつを奈落の底に蹴落とし その隙に逃げ果せた

「今でもたまに思い出すよ 叶わぬ願いを懇願するような 哀れな目をしていた」

「ダーシャとやら いずれそうなるとしたら どうする?」

「弱腰な事を云うておる喃」
その八尾比丘尼は 当然のように答えた

「儂はそのようなヘマをせんよ。何に替えてもこの呪いを解き、そのような悲劇は繰り返さん」

「……その過程で 無数の無辜なる須臾を手折る事となってもか?」

「順番の差に過ぎんじゃろて。意識がある内に摘み取る百の命と、
幽鬼になってから延々と鏖にする幾千幾万の命。どちらを取るべきかなど、火を見るよりも明らかよ」
私はこの女と ついぞ意見が合わなかった
幽鬼になることは確かにおそろしい
けれどそれを避けるためとはいえ この手で須臾を手折るなど……到底できないことだ

「おぬしはきっと、酷く後悔するぞえ。
その優しさにも似た無責任な残酷さが、おぬし自身を滅ぼすんじゃなあ」
だのに私は その言葉が耳から離れない
甘い幸福に身を浸せば浸す程
シュガーレスの笑顔を見て癒される都度 脳裏で 囁いてくる

「私は 間違っていない 私は 果報者だ」

「故に貴公は思い知るぞえ。終わったと思った事が終わっていない……
その恐怖の真髄を かつて突き落とした幽鬼の"目"の意味を」
その言葉が 何度も 何度も ……何度も────
ENo.66 劫波のプリムスピルス To be continued...