RECORD
Eno.44 ブルーバードの記録
◆10月20日、天浅葱の日記2
輿の中の私へ向かう、鋭い切っ先。
乗っている人物の命を狙う的確な角度、追撃の刃の数は明確な殺意。
刀を落とすことと引き換えに、すんでのところでそれを躱す。
追いかけられ、矢を放たれ、走って逃げる。
私を庇う者達の腕や背に矢が当たり、次第にその数が増えていく。
襲ってくる勢力の数は多く、前方と側面は完全に塞がれ、退路は後方のみ。
劣勢。
来た道を戻って右へ。
赤い鳥居をくぐり石畳を踏みしめる先は、左手に小さい本殿らしきもの、正面は崖。
まだ肌寒い季節だった。
梅だか、桜だか、そんな様子の花が咲いていた。
振り返る。
向こうからは大量の……黒い部隊。
掲げる紋章は……帝直属の精鋭暗殺部隊、通称暗部の紋。
暗部は一切表に出ることのない、帝勢力最強の始末部隊。
幼少期から帝に逆らってはいけないと教えられる理由。
どうしても仕留める理由がある者に差し向けられ、それは常に完遂される。
本物であれば、帝の奥の手の奥の手だ。
……相手を怯ませるために紋を騙ることはあったから、最初は偽者かと思ったが……
動きの練度的に……本物だ。
怖いという感情の前に、どうして???という疑問が膨らんでいく。
人違いではないか???
私は、帝とはいえ顔を知っている従兄弟の求婚を断っただけ……
しかも、正室は既にいて、何もしなくていいから!(=子供を作らなくていい)というとても適当な求婚を断っただけで、暗部が来る案件とは思えなかったからだ。
そんなに帝は怒っているのか???
そうだとしたら、本邸の父上にも何らかの処罰が下っているだろう。王子の家もそうだ。
私の我儘で何の問題もない家に迷惑をかけていることを、申し訳なく思った。
家臣達には家族がいて、皆の生活がある。
目に見えるものより、支えなければならない人の数は多い。
我儘で迷惑をかけてしまったことを、深く悔やむ。
あちらこちらで私を守ろうと盾となり散っていく人々の断末魔が聞こえる。
あっという間に崖まで詰められる。
刀を落とした私はまるで戦力にならない丸腰で、ただただ増える犠牲を
許容なんてしない!
狙いは私だろう!
私が『死ねば』いい!
海に着水すればなんとかなるだろうと、王子の制止を振り切り甘い考えで飛んだ崖下はボコボコの岩場で。
子供の脚力では到底海には届かなかった。
自分にあったのは、『姫様であった』ということだけだった。
それ以外に、自分が自分である意味を……何も持っていなかった。
どうせ自殺か他殺に終わる短い命。
せめて好きなように、自分の心のままに生きたかった。
利用するだとか、下心だとか、権力だとか、そういうのはどうでもいい
ただひとつ、『本当』が欲しかった。
……本物の、愛が欲しかった。
まだ未成熟な社会の権力中枢で、帝直系の血を持たされそれを願うのは、一番の贅沢だっただろう。
きっと何度同じ状況に置かれても、私は同じことをするのだろうけど。
そうして、我儘の果てに家からも切り離され、沢山の人を巻き込み殺し、自分は崖下で頭がトマトになって顔に泥を被っている。
家にとって一番大切な刀も守れず、忠義を尽くしてくれた家臣達を死に追いやり、ただの有象無象の女児に成り下がり、死ぬ。
もう体のどこも動かせはしなかった。
泣くこともできない白い視界に泥と未練が降り積もる。
……どうか一人でも多く逃げ延びて欲しいと願いながら、ただの女児は命を閉じた。
自分が狙われているのに、何が起きていたのか何も知れることなく。
乗っている人物の命を狙う的確な角度、追撃の刃の数は明確な殺意。
刀を落とすことと引き換えに、すんでのところでそれを躱す。
追いかけられ、矢を放たれ、走って逃げる。
私を庇う者達の腕や背に矢が当たり、次第にその数が増えていく。
襲ってくる勢力の数は多く、前方と側面は完全に塞がれ、退路は後方のみ。
劣勢。
来た道を戻って右へ。
赤い鳥居をくぐり石畳を踏みしめる先は、左手に小さい本殿らしきもの、正面は崖。
まだ肌寒い季節だった。
梅だか、桜だか、そんな様子の花が咲いていた。
振り返る。
向こうからは大量の……黒い部隊。
掲げる紋章は……帝直属の精鋭暗殺部隊、通称暗部の紋。
暗部は一切表に出ることのない、帝勢力最強の始末部隊。
幼少期から帝に逆らってはいけないと教えられる理由。
どうしても仕留める理由がある者に差し向けられ、それは常に完遂される。
本物であれば、帝の奥の手の奥の手だ。
……相手を怯ませるために紋を騙ることはあったから、最初は偽者かと思ったが……
動きの練度的に……本物だ。
怖いという感情の前に、どうして???という疑問が膨らんでいく。
人違いではないか???
私は、帝とはいえ顔を知っている従兄弟の求婚を断っただけ……
しかも、正室は既にいて、何もしなくていいから!(=子供を作らなくていい)というとても適当な求婚を断っただけで、暗部が来る案件とは思えなかったからだ。
そんなに帝は怒っているのか???
そうだとしたら、本邸の父上にも何らかの処罰が下っているだろう。王子の家もそうだ。
私の我儘で何の問題もない家に迷惑をかけていることを、申し訳なく思った。
家臣達には家族がいて、皆の生活がある。
目に見えるものより、支えなければならない人の数は多い。
我儘で迷惑をかけてしまったことを、深く悔やむ。
あちらこちらで私を守ろうと盾となり散っていく人々の断末魔が聞こえる。
あっという間に崖まで詰められる。
刀を落とした私はまるで戦力にならない丸腰で、ただただ増える犠牲を
許容なんてしない!
狙いは私だろう!
私が『死ねば』いい!
海に着水すればなんとかなるだろうと、王子の制止を振り切り甘い考えで飛んだ崖下はボコボコの岩場で。
子供の脚力では到底海には届かなかった。
自分にあったのは、『姫様であった』ということだけだった。
それ以外に、自分が自分である意味を……何も持っていなかった。
どうせ自殺か他殺に終わる短い命。
せめて好きなように、自分の心のままに生きたかった。
利用するだとか、下心だとか、権力だとか、そういうのはどうでもいい
ただひとつ、『本当』が欲しかった。
……本物の、愛が欲しかった。
まだ未成熟な社会の権力中枢で、帝直系の血を持たされそれを願うのは、一番の贅沢だっただろう。
きっと何度同じ状況に置かれても、私は同じことをするのだろうけど。
そうして、我儘の果てに家からも切り離され、沢山の人を巻き込み殺し、自分は崖下で頭がトマトになって顔に泥を被っている。
家にとって一番大切な刀も守れず、忠義を尽くしてくれた家臣達を死に追いやり、ただの有象無象の女児に成り下がり、死ぬ。
もう体のどこも動かせはしなかった。
泣くこともできない白い視界に泥と未練が降り積もる。
……どうか一人でも多く逃げ延びて欲しいと願いながら、ただの女児は命を閉じた。
自分が狙われているのに、何が起きていたのか何も知れることなく。