RECORD

Eno.564 バッドイヴニングの記録

BAD EVENING

丘を越えた山奥に

大きなモミの木あったとさ。

何千年を過ごした幹に

ヤドリギやどしたモミの木が。

そこへ男がやって来て

山奥生活始めてさ。

男は修行に身をやつし

魔法の勉強してたとさ。

世を断ち人断ち魔法に狂い

ついでとばかりに魔術に浸る。

そんな男がやらかしたのは

己の定めた禁忌の途中。

魔力の積もるこの土地で

成果を出すまで人肌ナシとやってたら。

なんの間違いか。

なんの気まぐれか。

よりによって一夜の過ち

よりによってモミの木へ

よりによってこの土地で。





それがちょうど、冬の聖夜祭の前夜だった。
星が酷く輝いて、月は雪を明るく照らした青白い夜に。
生命と魔力が出会ってしまったのだ。

男は気の迷いを起こしたその後も修行に没頭していたが、
それから一週間が経った年の瀬、世代りの夜に泣き声を聞いた。
こんな山奥で聞いてはいけない声だったので、出所を探ってみると、
大きなモミの木の一番低く太い枝に、赤ん坊が実っていた。

甘い香りのする赤ん坊。
モミの木の葉の髪に、男と同じ赤い瞳。
右胸に小さく芽生えた緑。



生まれた時からヤドリギを宿す、モミの木のドライアド。
同種のいない亜人族が、この世にひとつ増えた瞬間である。