RECORD
Eno.199 スレイアの記録

お気に召しましたか?と言って笑うのは、
故郷(竜としてのだ)の山間近くにある村の宿の看板娘。
もうだいぶ朧げな本来の記憶に任せて村をふらついていたら、
この付近は危ないからと親切にも宿に招き入れてくれた。
護衛付きのキャラバンが通るまで、手伝いと引き換えの食事つきで。優しい人の子だ。
ただ、騙す形になるのもよくないので、己の事情を大体説明したら、
たいそう驚いた顔をしていたのがまた印象的であった。
それから軽く話を交えて、宿娘の知る竜殺しの話をしてもらったところだった。
「……面白かった」
愛想も出せずに答えるが、相手はそれでも嬉しそうによかったと微笑む。
それだけで満足できれば良かったのだが、
この場ではもう一つ聞きたいことがあって。息をゆっくりと吸ってから。
「その者たちの……名前を、憶えているか?」
伺えば、殆ど間を置かずに「もちろん」と帰ってきて。
ひとつひとつ、淀みなく敬称付きで呼ぶものだから、思わず息を吐く。

それもまた、竜を殺したからではなく。
ただそこで生きていたから。ただそれだけの理由で。
胸が騒ぐ。期待としても。
この身体に眠った、植え付けられた記憶の彼らからも、また、声が聞こえるようで。
「……自分は……」
数日滞在したら離れるつもりだった。
ただ、もうしばらく居ても構わないのではないか、という気持ちが湧く。
だがそれは無償では成り立たない。対して金銭を持っていないし、
今すぐ稼ぎ口を見つけるのも無理な話……と、未だ目を逸らしている。
期待の矛先も。当面の稼ぎ先も。すぐ近くにあるというのに。
「自分も……また、既に、
この手で竜殺しを成してしまった。だが、」
「それでも……冒険者には」「なれるの、だろうか」
羨ましかったのかもしれない。
口をついて出たのはとても幼い願望だ。竜らしいそれ。
人の形に落とされなければ、抱くことも許されなかっただろうそれ。
冒険者と〝帰れる場所〟を繋ぐ女は、
その僅かに芽生えた冒険心を見抜き、とてもにこやかに笑って、告げるのだ。

……竜殺しは。終着点ではなく、通過点。
常識を覆されるような、だが。魅力的な響きだった。

「これからの冒険に、沢山の些細で素敵な与太話がありますように」
始まるドラゴンテール

宿娘
「──そして彼らはいつものように帰ってきた。
下水道掃除をこなしてきたときと変わらず。それが私の知る……
かつてこの宿にいた、竜の討伐を成したパーティのお話です」
お気に召しましたか?と言って笑うのは、
故郷(竜としてのだ)の山間近くにある村の宿の看板娘。
もうだいぶ朧げな本来の記憶に任せて村をふらついていたら、
この付近は危ないからと親切にも宿に招き入れてくれた。
護衛付きのキャラバンが通るまで、手伝いと引き換えの食事つきで。優しい人の子だ。
ただ、騙す形になるのもよくないので、己の事情を大体説明したら、
たいそう驚いた顔をしていたのがまた印象的であった。
それから軽く話を交えて、宿娘の知る竜殺しの話をしてもらったところだった。
「……面白かった」
愛想も出せずに答えるが、相手はそれでも嬉しそうによかったと微笑む。
それだけで満足できれば良かったのだが、
この場ではもう一つ聞きたいことがあって。息をゆっくりと吸ってから。
「その者たちの……名前を、憶えているか?」
伺えば、殆ど間を置かずに「もちろん」と帰ってきて。
ひとつひとつ、淀みなく敬称付きで呼ぶものだから、思わず息を吐く。

宿娘
「皆、私が見送ってきた冒険者さん達ですもの。
誰一人、忘れることなく帰りを待っていなくちゃ」
それもまた、竜を殺したからではなく。
ただそこで生きていたから。ただそれだけの理由で。
胸が騒ぐ。期待としても。
この身体に眠った、植え付けられた記憶の彼らからも、また、声が聞こえるようで。
「……自分は……」
数日滞在したら離れるつもりだった。
ただ、もうしばらく居ても構わないのではないか、という気持ちが湧く。
だがそれは無償では成り立たない。対して金銭を持っていないし、
今すぐ稼ぎ口を見つけるのも無理な話……と、未だ目を逸らしている。
期待の矛先も。当面の稼ぎ先も。すぐ近くにあるというのに。
「自分も……また、既に、
この手で竜殺しを成してしまった。だが、」
「それでも……冒険者には」「なれるの、だろうか」
羨ましかったのかもしれない。
口をついて出たのはとても幼い願望だ。竜らしいそれ。
人の形に落とされなければ、抱くことも許されなかっただろうそれ。
冒険者と〝帰れる場所〟を繋ぐ女は、
その僅かに芽生えた冒険心を見抜き、とてもにこやかに笑って、告げるのだ。

宿娘
「竜殺しだろうと、人殺しだろうと……
何かのために戦うなら、それが通過点に過ぎないなら。
あなたはまだ、何にだってなれる、ということですよ」
……竜殺しは。終着点ではなく、通過点。
常識を覆されるような、だが。魅力的な響きだった。

宿娘
「まずは歓迎します、旅の方。
そして───ようこそ、硝子の与太話亭へ」
「これからの冒険に、沢山の些細で素敵な与太話がありますように」