RECORD

Eno.637 ナルシテート・スラミガル・ビビの記録

触手人と竜人

世の中には相性、というものがある。
火が水に弱いみたいに、猫が鼠を食べるように、種族や個人にも相性というものがある。
そういう意味では、触手人ミジメ力竜人ナルシテの相性というのは、きわめて最悪であったと言えよう。
傲慢と臆病。
悪人と善人。
狂気と正気。
魔種と貴種。
二人が出会ったのは、ミジメ力がナルシテの閉じ込められた領地に踏み込んだからであり、ナルシテが帰るように促した所バチバチに向こうがろくでもない喧嘩を売ってきたからである。

「ナニ考えてんダ駄竜クソトカゲ!楽しかったんだろ!?楽しかったんだよなあ!!テメエより弱い奴食い散らかすのはヨオ!!」



ナルシテにとって、アレはどうしようもないケダモノだった。
無垢かと思いたくなるほどの後先の考えなさ。無鉄砲で下品で俗。
笑い声ばかりが高らかに響く乱暴者の、どうしようもないまでの悪辣な振る舞いが、ナルシテの酷くカンに障った。
振り返ってみれば。
ナルシテが腐りきれなかった理由のひとつがアレだったのかもしれない。
実力だけでならナルシテの方が遥かに強いのに、ミジメ力はどれだけたたきのめされても楽しそうで、そのくせメンタル面においては常にナルシテの踏まれて嫌なところを的確に踏み抜いていく。
使用人の娘に手を出して土に返した時は本当に殺しかけるほどの大喧嘩になった。
探索者を長年している事から恐ろしくしぶとくなった奴であるが、不思議とアレから離れていくことはな……いや、ナルシテを叩けば鳴る玩具だと思っている節がある。
アレの縁で、いくつか面倒な縁にまでつながれていた。

「ギャアッハッハッハッ!!」



暴力を楽しむ奴は笑うのか、と思ったのを覚えている。
真似をするわけではないけれど、陽気で馬鹿でうるさくてゲラゲラと笑い続けるアレの方が楽そうだと思ったから、なぞったところはあった。
ああなれないとは知っていたけど。
一つ、見本を見つけた気持ちがあった。
相性は悪かった、ミジメ力が嫌いだ。ああも世界が単純なら、きっとナルシテは苦しくなくて済んだんだろう。復讐を終えたことで一つの区切りを手に入れられたのかも。
でもそうでなかったから。

こんな猿真似を続けている自分をごまかすのにちょうどいい



そうして、この世界の道を見つけてしまった。