RECORD
Eno.673 フィアールカの記録
夜分遅く、零時過ぎ
父は何時も帰りが遅かった。
生活は慎ましく、狩りに出かける彼だけが生活の頼りだった。
食べて栄養を得られるのは人型の生き物の肉だけ。
同じように人間を害する種族を狩ることが生活の糧だった。
だから母と一緒に、父の帰りを何時も待っていた。
母は大層な酒好きで、煙草も吸う、黒いドレスを纏う女だった。
所謂毒婦と呼ばれるような性格だったけど、娘と父には優しく美しかった。
単純に、家族以外が嫌いだったのだろう。
冬の日。
外にはたくさんの雪が積もって、外に出るのは危ないくらいだった。
燃料も乏しいから、寒い日は何時も母とくっついていた。
そんな冬でも、一日、二日だけ、少し豪華なご飯を食べる日があった。
聖誕祭という文化はなかったが、代わりに冬の日の祝いがあったのだ。
そういう名で呼ばれていなかっただけで、起源としては似たようなものだったかもしれない。
その日はその楽しみな夕食が作られる一日で、その日だけは父を待って、それから母が料理を作る。
少しだけ何時もより綺麗な服を着て、夜更かしをして皆で食事を食べる、そういう日のはずだった。
夜分遅く、零時過ぎ。
日付が変わって眠気が訪れていた頃。
扉が開いた。
荷物が多いから、父は扉を開ける時は二歩手前に下がって開ける。
扉を開けて、荷物を下ろしてから、家に入るのだ。
でないと体が大きい彼は引っかかってしまうから。
そんな父に待ち切れず、飛びついて迎えるのが何時ものことだった。
そうして今日も、閉じかけていた目を開いて、母の腕から抜け出して、駆け寄った。
何時もみたいに。
見慣れたシルエット。家に来る人なんて、ほとんどいない。
しかもこんな夜遅く。だから。
何の警戒もなく、母の腕を抜け出したのだ。
そして。

飛びついて感じる、父の匂い。
獣臭さと、煙草と、鉄錆の匂い。
その中に、違う匂いが混じっていることに、飛びついてから気づいた。

おとぉさんじゃ、ない。
それは、狼の皮を被った人間だった。
足元に衝撃と鈍い感触と激痛。
赤い色が散った。
母の声が聞こえる。
母が呼んでいる。
母が。
おかぁさんが。
ばらばらになってしまう。
おとぉさん。
生活は慎ましく、狩りに出かける彼だけが生活の頼りだった。
食べて栄養を得られるのは人型の生き物の肉だけ。
同じように人間を害する種族を狩ることが生活の糧だった。
だから母と一緒に、父の帰りを何時も待っていた。
母は大層な酒好きで、煙草も吸う、黒いドレスを纏う女だった。
所謂毒婦と呼ばれるような性格だったけど、娘と父には優しく美しかった。
単純に、家族以外が嫌いだったのだろう。
冬の日。
外にはたくさんの雪が積もって、外に出るのは危ないくらいだった。
燃料も乏しいから、寒い日は何時も母とくっついていた。
そんな冬でも、一日、二日だけ、少し豪華なご飯を食べる日があった。
聖誕祭という文化はなかったが、代わりに冬の日の祝いがあったのだ。
そういう名で呼ばれていなかっただけで、起源としては似たようなものだったかもしれない。
その日はその楽しみな夕食が作られる一日で、その日だけは父を待って、それから母が料理を作る。
少しだけ何時もより綺麗な服を着て、夜更かしをして皆で食事を食べる、そういう日のはずだった。
夜分遅く、零時過ぎ。
日付が変わって眠気が訪れていた頃。
扉が開いた。
荷物が多いから、父は扉を開ける時は二歩手前に下がって開ける。
扉を開けて、荷物を下ろしてから、家に入るのだ。
でないと体が大きい彼は引っかかってしまうから。
そんな父に待ち切れず、飛びついて迎えるのが何時ものことだった。
そうして今日も、閉じかけていた目を開いて、母の腕から抜け出して、駆け寄った。
何時もみたいに。
見慣れたシルエット。家に来る人なんて、ほとんどいない。
しかもこんな夜遅く。だから。
何の警戒もなく、母の腕を抜け出したのだ。
そして。

「――――」
飛びついて感じる、父の匂い。
獣臭さと、煙草と、鉄錆の匂い。
その中に、違う匂いが混じっていることに、飛びついてから気づいた。

「 」
おとぉさんじゃ、ない。
それは、狼の皮を被った人間だった。
足元に衝撃と鈍い感触と激痛。
赤い色が散った。
母の声が聞こえる。
母が呼んでいる。
母が。
おかぁさんが。
ばらばらになってしまう。
おとぉさん。