RECORD

Eno.563 一つ目の蜻蛉の記録

薄翅:臆見



昔の話だ。
中学の時、全国的にある都市伝説が流行っていた。

バーチャルでの授業、バーチャルでのクラスルームが当たり前になって、囁かれたある噂。
少子化で足りない学生の数を補い、誰もが友人を得られるように。そして、子どもたちの監視のために。クラスの中には何人かAIによるダミーの生徒が混ぜられている、と。
事実、児童の減少に伴い義務教育は全国統一校だ。しかしわざわざAIの生徒を紛れ込ませるなんて、と僕は思っていたけれど。

子どもの好奇心と想像力は、時に悪い方向に動く。
最初は悪ふざけから、次第に本気で、誰がダミーか推理をするゲームが始まった。
いじめに厳しい社会になって、バーチャル空間での言動は記録されている。だから生徒は抜け道を探して、ひそひそとクラスメイトを品定めした。時には暗号文で、時には電話回線で、そして時にはアナログに回帰して。

僕がその標的になっていると知ったのは、夏休みが明けてからだった。

誰とでも話す。だけれど誰とも親しくはなかった。
勉強を真面目にしてる。だけれど成績が特別いいわけではない。
運動は結構できるけど、目立つのを避けている。アバターも地味。
田舎に住んでいるらしい。リアルで連絡取った人いる?いないよね。ゲームやってるらしいけど、人と遊ぼうとはしてない。
それに。
なりたいものがまだわからない、と話していた。

そうなのか。
バーチャルなら、こんな空気まで再現しなくていいだろと思った。
母とのふたり暮らしでは感じたことのない、寂しさだった。

結局。問題とされて、政府が正式にダミーの存在を否定したので、噂は残りつつも、流行は次第に去っていった。

あのときのクラスメイトから声をかけてもらうことは、結局なかった。
気にしない、ように生きていたけれど。
あの世界が嘘であったなら、少し救われるものがあるのは、事実だ。

僕も結局、信じたいものを信じている。
それでも。ここにあるものは。ここで友から貰って、僕の中に残ったものは。

本物だと、自信を持たせてくれた。
だからもうこれで、昔の話はしない。