RECORD

Eno.673 フィアールカの記録

朝が来る、五時過ぎ

フィアールカ。菫の花のように美しい人。
すみれ色の目を持つその種族は、血が濃いほどに能力が高く、異種族の亜人の血を取り込むことによって特性を増す場合がある。
つまりはフィアールカ同士での婚姻を結んだ場合、その子どもはフィアールカの血がより濃くなるということだった。

純血のフィアールカ。
神祖の生きる時代では彼らは神の使いとされ、人柱を得る代わりに権能により人を助けたという。
血の薄まりにより権能が薄れ、畏敬から迫害へと扱いが変化していったのではないかとされている。

血肉や骨を加工することによって、優れた薬、毒、魔道具へと成る彼らは、正確に歴史を辿るのであれば、人柱と成る種族だった。
一体を屠ることにより、その権能を血肉の提供によって分け、加護を与える。
そういった文化であり種族であり、宗教的な意味合いを持つ儀式めいた行為だった。
重なる歴史、権力争いによってそれらの謂れは廃れ、滅び、今では知る者も少ない。

絶滅させようとする人種族の動きはあれど叶ってはいない。
何故か? 程よく数を管理し、生かし、利用する方が有効的だからだ。
神を家畜としようとする試みだった。宗教的な文化は意図的に廃れさせられた。
連綿と続く人の営みの中では珍しいことでもない。

だから彼らは定期的に狩られ、隠れ、生かされ、必要に応じて死と葬列と解体により、権能による実りをもたらした。

そういった人の目論見は、得てして道を外れていくものだった。

蠢いている。


蠢いている。


蠢いている。



比較的血の濃い両親を持つ娘は、珍しい純血に近いフィアールカだった。
神の使いに近い存在だった。
神祖の生きる時代でフィアールカが神の使いとされたのは、ただ単純に神々に彼らの美しさが愛されたがゆえだった。

およそ誰もが顔を顰めるような夜の惨劇に、かつて愛した種族の面影を強く残す少女への仕打ちに、何よりも神の権威を貶める行為の数々に、彼らは黙ってはいなかった。
繰り返されるそれらは、神の威を貶めるものなれば、堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題だったということだろう。
だが、既に時は神祖の生きる時代ではなく、彼らが人の地に降りることは出来なかった。

だから、使い自身に権利と意思を譲渡した。

空が覆われる。


人を呑み込んでいく。


父の残骸と母の残骸を探している。



冬の国、ウェルク。騎士団を持つ魔術国家。
神をも恐れぬ魔術技術と、白と金の騎士達を携えた国は、かくして神の使いに飲み込まれた。
最北のケルガ森林を起点として起こったその現象に、隣国の春の国スメルバは調査隊を派遣した。
異世界人を伴う、数人のパーティーだったとされている。