RECORD

Eno.179 アルア・フィフスの記録

アルア・フィフスはソレに初めて会った気がしなかった。
ぬるりとした姿。外から来た神。
かつて信仰していた神に、邪神に、似ていた。
死と破壊と終焉をもたらす、世界の終わりを望んでいた。



それはそれとして、酒場での彼女は人の姿で。
どうやら人と共に、在りたいようで?


「ねぇ、アルアクン?」

「───カミ殺し、興味ある?」

「────内容によっては」

「あっはは、アルアクンならすぐ乗るかと思ってた。

 件のアレ、ボクが死ねば少しは大人しくなると思うから

 ───ボクと私闘しない?ボクを殺してくれない?

「あァ、成程…
 私ァ、てっきりあちらの暴れている方とやり合うのかと。
 あちらはあまり人が手を出して何とかなる類のモノでは無いと感じているので…」

目線が泳ぐ。手の震えを誤魔化す。明らかな畏怖



信仰していたと言っても。
子供の頃にどこぞから攫ってきた使い捨て。
快楽という報酬ででっちあげられた紛い物。
それでも生涯をかけて仕えて尽くして来たし、
それに捧げる人生であり、自分であると、ずっと思って生きてきたし。
それ以外何も知らないし、今更だし。



すべて救われる壊れていく世界から、遺され見捨てられたその恨み言を。
畏敬と憎しみを、狂おしく、ぶつけるように。
戦うたびに、呪いの言葉を。
嗚呼、なんて八つ当たり。


「はは、ほら、敵わない」

「あんな、宇宙の全部を壊してしまうくらいの、存在に」

「ニンゲンは叶わないし」

「共に生きることなんて、できない…」



彼女は微笑む。耳元の。蕩かすような囁き。

「キミがあの光景以上の物を見つけていないのなら」

「ソレが、至上だと感じているなら。
 お望み通り、迎えに行ってあげよう」



矮小な人間の振るった刃は神に届かず、
何度も、なんども、なんども彼女の望むままに。
何度相対しても足の震えは止まらず。


だけど、ただ。私はアナタの望みを叶えたかったんだ。

今よりも一歩だけでも、近く。
人ならぬ身を、あの場所の近くに置いておきたい。
あの場所に憧れ焦がれている。その望みは、まさに自分と同じ。

どうしようもない化物みたいな自分と同じ。



「や、ぁっと……通してくれた、ねぇ…?……は、ハ……まち、わびた、よ……」

「だ、いすき…だ、よぉ…?…あ、る……────」


「ほんとうに、お待たせしましたねェ…」


「私だって、」

だいすきですよ。
その言葉はもう聞こえていないだろうけど。



触手をガシガシと乱暴に切り落とす。ただのひとりのあなただ。
手が届いてしまう。つまらない。こわくない。
ソレを両手で抱きしめて。
手を離せば、足元でバシャリと、黒い液体が跳ねた。




神は一度、殺された。




「アルアクンとも色々と付き合ってもらったからねぇ。」

「ほんっとにねェ…………」 しみじみ……

「姉さんは、一回死ぬ前と死んだあとじゃ、どうです?
 今の方が、楽しい?」

「…ふふ、得た物もあったし失った物もある。
 何方もまた違った楽しみがあったけれど……」

「──キミに殺されてよかった、とだけは確実に言えるよ。アルア」

「…………二度とは、ゴメンですけどね」



「まァ、それならよかった。────いい人生を」


大いなる神から切り離されて、随分と小さくなってしまった彼女は人の妻となり。
この先……また今までとは違う地獄で生きていくのだろう。

よい人生を。




アルア・フィフスは神の望みを叶えた。
これがエピソードのうちのひとつ。