RECORD

Eno.637 ナルシテート・スラミガル・ビビの記録

静寂

静寂に包まれる度に恐怖を覚えた。
それが静寂恐怖症静かだとあの日の朝を思い出すと呼ばれるものであることを知った。
性的な乱れに嫌悪をした。
それが軽度の性嫌悪障害穢された家族を思い出すと呼ばれるものであることを知った。
過去の記憶に手を入れられる度に激昂が抑えられなくなった。
それが心的外傷家族との記憶が苦痛と呼ばれるものであることを知った。

その痛みからなるストレスを、ナルシテはおかしいと思いつつ愛した。
正気のうちに、ただ慈しみ、腐るがままに任せた。

「君も底抜けのお人好しだな……」


そうかもしれません。
人に親切に、お前は強いのだからと教わりました。


「引きずらずに生きていけるのかなと、疑問にあがりました。
……ただ、新たな出会いも悪くはありませんよ」


知っております。そんなこと。
しかし新たな出会いを得る度に失ったものに苦しくなるのです。
あなたに会えたならきっと娘は喜んだでしょう。山菜が好きな子だったとか、あなたの世界の話を聞きたがったかも。
そんなことを思うのです。ありし日を今に重ねてしまう瞬間に心の臓を刺されてしまう。


「遂に希死念慮でも顔をお見せに?」


死に意味を持ちたくありません。
あの子たちは生きたかった。私が殺したもの達は皆生きたかった。
殺したアタシが死に許しを求めるなら、それは殺した連中も許したことになりませんか。
許しません。許さなくていい。アタシは生きないといけない。
幸福に終われなかった人達の分まで。


「努力じゃなくて」「約束」


あなたを見ていると愚かな自分を見ている気持ちになる。
アナタとアタシは似ている。


「絶対に、会いに行くから。その頃には泣き止んでてくれよ」


あなたには二度と会いたくない。
あなたは湿った傷口を慰撫する事をやめてくれないから、傷がいえるのが恐ろしい。


「許してあげたら?」


……。

「ふぃあーるかは、ここ……」


「ビビ、ずっと一緒に居て……」


「ビビ……」



傷口の形を、あなたはしている。
あなたはこんな風にならないで欲しい。
そう祈るにはあなたの傷は作りたて過ぎて。
ああ。



許せない。許せるものか。何もかもままならない。痛みに泣いている。息ができない。何度でも過去の残穢が瞼裏を穢している。
傷口が神経に触っている気がした。
取り返しがつかないかもしれない。
取り返しは、つかないかもしれない。
許すとか、罪を償うとか、そんなものは随分と遠い話で。


は逃げてはいけない」



勇者がきっと待っている。
31日に、戻るつもりだ。