RECORD
Eno.637 ナルシテート・スラミガル・ビビの記録
帰還
久々に降り立った自分の世界は、濃い緑の匂いがした。
さて、ここから考えなければならない。
フィアールカの事、メリルの事、約束を果たすのにナルシテはどうすればいいのか。
考えなければいけない。逃げてはいけない。ゆっくり。たしかに。
メンタルの悪化は否めない。
だからこそ焦ってはいけなかった。
不正解が怖いというべきか。もう間違えてはいけないという質感がある。
とりあえずは休暇申請の延長だ。領主としてはほとんど機能していなかったナルシテが休むことに、周りは否定はしないだろう。
いくつかの雑務をこなしてから、あとは受け入れの体勢を作るべきか?そもそもまだこちらに引き入れるかも悩んでいる。
信頼出来るこちらの世界の者に相談すべきか。
部屋を用意するにしても、何が突然体に害を及ぼすかは分からない。文字通り異世界の住人だ。準備は十全にした方が良い。
まずは自分の養父に連絡すべきだろう。やることは多い、迷う暇はない。
珍しくナルシテは、静かな森が気にならない程度には考え事をしながら歩いていた。
やることがあれば意識も多少別の方向にむく。暗いことを考えない、というのはいい事だった。
惜しむらくは。
もうハナから間違えていた、という点か。
不正解を踏まないなんて、もうできない話だった。
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ずばん、と一閃が走った。
スパッと何かが切れた感触がする。
痛みは遅く、どこが切れたのかはすぐに分かる。
片腕。いや、まだ繋がっている。
手心を加えられた。
人よりも赤い血液が流れる。

ほほ笑みを浮かべ、女は血ぶりをして剣を下げた。
ずっと待っていたのだろう。わざわざゲートの発見場所に張り込んでいたらしく、キャンプ跡が見て取れる。
白い肌、青い瞳、赤毛の勇者。

勇者ラデュレは、まるでさも名案のように提案した。


声は震えていた。
いつもの軽薄な調子は消えて、顔に浮かんでいた微笑むが抜け落ちる。口の中が一気にかわいていく。
変な汗が落ちるのを感じる。
指先にたれる血が、ぽつ、と汚点をつくっていた。
さて、ここから考えなければならない。
フィアールカの事、メリルの事、約束を果たすのにナルシテはどうすればいいのか。
考えなければいけない。逃げてはいけない。ゆっくり。たしかに。
メンタルの悪化は否めない。
だからこそ焦ってはいけなかった。
不正解が怖いというべきか。もう間違えてはいけないという質感がある。
とりあえずは休暇申請の延長だ。領主としてはほとんど機能していなかったナルシテが休むことに、周りは否定はしないだろう。
いくつかの雑務をこなしてから、あとは受け入れの体勢を作るべきか?そもそもまだこちらに引き入れるかも悩んでいる。
信頼出来るこちらの世界の者に相談すべきか。
部屋を用意するにしても、何が突然体に害を及ぼすかは分からない。文字通り異世界の住人だ。準備は十全にした方が良い。
まずは自分の養父に連絡すべきだろう。やることは多い、迷う暇はない。
珍しくナルシテは、静かな森が気にならない程度には考え事をしながら歩いていた。
やることがあれば意識も多少別の方向にむく。暗いことを考えない、というのはいい事だった。
惜しむらくは。
もうハナから間違えていた、という点か。
不正解を踏まないなんて、もうできない話だった。
「あ?」
ずばん、と一閃が走った。
スパッと何かが切れた感触がする。
痛みは遅く、どこが切れたのかはすぐに分かる。
片腕。いや、まだ繋がっている。
手心を加えられた。
人よりも赤い血液が流れる。

「おかえりなさいませ、ナルシテート様」
ほほ笑みを浮かべ、女は血ぶりをして剣を下げた。
ずっと待っていたのだろう。わざわざゲートの発見場所に張り込んでいたらしく、キャンプ跡が見て取れる。
白い肌、青い瞳、赤毛の勇者。

「異世界への渡航、お疲れ様です。色々と私も言いたいことはありますが……、はい、ええ」
勇者ラデュレは、まるでさも名案のように提案した。

「蘇生代は私が持つので、今回の規則破りの謝意として一度死んでみせる、というのはいかがでしょうか?
多分、それで上の老害達は口を噤んでくれると思います。あの方々も鬼ではありませんからね」

「……久しぶりですね、ラデュレ。答えはとりあえずいいえ、かな」
声は震えていた。
いつもの軽薄な調子は消えて、顔に浮かんでいた微笑むが抜け落ちる。口の中が一気にかわいていく。
変な汗が落ちるのを感じる。
指先にたれる血が、ぽつ、と汚点をつくっていた。