RECORD
Eno.255 Siana Lanusの記録





*
中央大陸セント・ヴァースは3つの地方に分けられる。
霊峰ファキュリスの南部のエウディーコ地方、
ファキュリスの北のピエラス地方、大陸北部のパラガシーゼ地方。
ここエウディーコ地方のベルラング王国は特に、創壁神への信仰が厚い地域だ。
霊峰ファキュリスにはかつて創壁神が降臨したという神話があり、
そのお膝元の街である首都ベルンを聖地として中心に国は発展して行った。
このエウディーコ地方には大きな港が無く、大陸南でありながらも南部大陸サウス・ヴァースとの繋がりが薄かった。
貿易による発展を変化と捉える者が多いが故だろう、サウス・ヴァースに渡る為には
エウディーコ地方を抜けてピエラス地方に出る必要があった。
古い因習や慣習に囚われている街村は少なく無く、小規模な村村は合併をせずに遍在し、
結果小さな村街は魔物に襲われて地図から消える事も少なくは無い。
……そんな状況でもありながらも人々は、自らの生まれ育った村街に固執する。

廃墟と化した村の瓦礫でひと休憩に腰を下ろしながら、シアーナは地図を確かめる。
村が集まっているこの周辺はそれなりに維持されている道があり、
行商らしい人通りも少なくない。
……作戦からいくらか経ったとはいえ、人目は避けるに越したことはない。
どこかで尾を掴まれれば、芋づる式に他の支川も信徒たちも危うくなる。
足跡が追えぬ様なルートを選びつつ、神への信用を無くした人々へと自立の教えを伝える。
なんとも難しい話だと思いながら、地図をくると巻いて閉じては道なき道を行く。
──世界を創造したという創壁神は、「“今”を愛せ」と人に広めたという。
多くを求めず変化を求めず、現状に満足しそれを維持しろという教え。
創壁神の信徒たちは境会── 『境に壁を築き護る者の教会』ということで境会と呼ぶ──を各村街に築き、
魔物から村街を護ることで支持を増やし、その勢力を拡大して行っていた。
創壁神の教えが広がって行き────それは世界の成長を、著しく阻害していた。
だからその教えを、信仰を、常識を、
真理ではないのだと知らしめるべく、壁を壊す必要があったのだ。が。
……自分たちは壁を壊して、確かに人々に成長を促せたのだろうかと、
滅んだ村を一度だけ振り返って、また先へと進む。
変化には痛みも犠牲も付き物だ。それに直面して乗り越えられなかった村が、こうやって滅んで消える。
幸いにも思考をする時間は、長い旅路の中沢山ある。
滅ばず残ってる村々も、きっと。
それらに出逢えば、己らの信仰に対する人々の回答が見れる。
少しでも吉報がある事を願いながら、シアーナは道を行くのだった。
────
──某所。

声変わり前だろう少年の喉から、柔らかな言葉が紡がれる。
声とは裏腹にぱきりと鳴った冷たい音が、彼以外による声を遮断した。
無垢なカソックを来た少年、キシマ・ザルバは
足元で凍りついたシスターに静かに笑みを向けて
やわらかにその冷たい氷の表面を撫でた。

目的を害する、ある種“敵”であるそのシスターを、
半分の嘲笑と半分の慈しみを以て、キシマは見下ろした。
……此度の劇の役者として使いたかった人間だったが、
内情を知り後に勇者に与する事のできる人間を一人取っておくのも悪くない。
邪魔をしようとしに来てくれた事に感謝を内心で思いながら、キシマはその場から踵を返す。
役者は揃い、整い、舞台も、観客も整った。
あとは開幕のブザーが鳴るのを、舞台袖で心待ちにするだけだ。
──傍観の大魔、リラ・テラーは
魔王の側近たる高位の魔物であり、物語をこよなく愛する者であった。
かれは自ら《道化師》と呼ばれる魔物を生み出し、目を埋め込んで世界へと解き放ち、
《道化師》に物語を創らせ、それを眺める者だった。
《道化師》は物語を創り、己を物語の中で消費するのを是とする魔物だ。
即ち己を悪役として仕立て上げ、正義に誅される事を望むものであった。
《道化師》たるキシマ・ザルバはその物語として、邪教を選んだ。
つまりそれは、遠からず正義に誅される事になる。
勇者と呼ばれる、正義を執行するために生み出された者に処分されるために、
彼らの思想は、世界に悪とされる。
◆漏洩

「こんにちは。ああ大声は出すなよ、君にとっていい話を持ってきたんだ」

「優秀な幼馴染の勇者に置いてかれないよう着いていく事しか出来ない、君に」

「価値を付ける、いい情報を君にあげたいんだ」

「──そうでもしてやらないと、君がとっても不憫なものだからさ」

「…………、」
*
中央大陸セント・ヴァースは3つの地方に分けられる。
霊峰ファキュリスの南部のエウディーコ地方、
ファキュリスの北のピエラス地方、大陸北部のパラガシーゼ地方。
ここエウディーコ地方のベルラング王国は特に、創壁神への信仰が厚い地域だ。
霊峰ファキュリスにはかつて創壁神が降臨したという神話があり、
そのお膝元の街である首都ベルンを聖地として中心に国は発展して行った。
このエウディーコ地方には大きな港が無く、大陸南でありながらも南部大陸サウス・ヴァースとの繋がりが薄かった。
貿易による発展を変化と捉える者が多いが故だろう、サウス・ヴァースに渡る為には
エウディーコ地方を抜けてピエラス地方に出る必要があった。
古い因習や慣習に囚われている街村は少なく無く、小規模な村村は合併をせずに遍在し、
結果小さな村街は魔物に襲われて地図から消える事も少なくは無い。
……そんな状況でもありながらも人々は、自らの生まれ育った村街に固執する。
「……森を歩いた方が安全そうね」
廃墟と化した村の瓦礫でひと休憩に腰を下ろしながら、シアーナは地図を確かめる。
村が集まっているこの周辺はそれなりに維持されている道があり、
行商らしい人通りも少なくない。
……作戦からいくらか経ったとはいえ、人目は避けるに越したことはない。
どこかで尾を掴まれれば、芋づる式に他の支川も信徒たちも危うくなる。
足跡が追えぬ様なルートを選びつつ、神への信用を無くした人々へと自立の教えを伝える。
なんとも難しい話だと思いながら、地図をくると巻いて閉じては道なき道を行く。
──世界を創造したという創壁神は、「“今”を愛せ」と人に広めたという。
多くを求めず変化を求めず、現状に満足しそれを維持しろという教え。
創壁神の信徒たちは境会── 『境に壁を築き護る者の教会』ということで境会と呼ぶ──を各村街に築き、
魔物から村街を護ることで支持を増やし、その勢力を拡大して行っていた。
創壁神の教えが広がって行き────それは世界の成長を、著しく阻害していた。
だからその教えを、信仰を、常識を、
真理ではないのだと知らしめるべく、壁を壊す必要があったのだ。が。
……自分たちは壁を壊して、確かに人々に成長を促せたのだろうかと、
滅んだ村を一度だけ振り返って、また先へと進む。
変化には痛みも犠牲も付き物だ。それに直面して乗り越えられなかった村が、こうやって滅んで消える。
幸いにも思考をする時間は、長い旅路の中沢山ある。
滅ばず残ってる村々も、きっと。
それらに出逢えば、己らの信仰に対する人々の回答が見れる。
少しでも吉報がある事を願いながら、シアーナは道を行くのだった。
────
──某所。

「──冬の女王は慈しむ されどそこに温もりは無く」
声変わり前だろう少年の喉から、柔らかな言葉が紡がれる。
声とは裏腹にぱきりと鳴った冷たい音が、彼以外による声を遮断した。
無垢なカソックを来た少年、キシマ・ザルバは
足元で凍りついたシスターに静かに笑みを向けて
やわらかにその冷たい氷の表面を撫でた。

「まったくメムったら、僕の邪魔をしようとしてるのはお見通しだったのに」
目的を害する、ある種“敵”であるそのシスターを、
半分の嘲笑と半分の慈しみを以て、キシマは見下ろした。
……此度の劇の役者として使いたかった人間だったが、
内情を知り後に勇者に与する事のできる人間を一人取っておくのも悪くない。
邪魔をしようとしに来てくれた事に感謝を内心で思いながら、キシマはその場から踵を返す。
役者は揃い、整い、舞台も、観客も整った。
あとは開幕のブザーが鳴るのを、舞台袖で心待ちにするだけだ。
──傍観の大魔、リラ・テラーは
魔王の側近たる高位の魔物であり、物語をこよなく愛する者であった。
かれは自ら《道化師》と呼ばれる魔物を生み出し、目を埋め込んで世界へと解き放ち、
《道化師》に物語を創らせ、それを眺める者だった。
《道化師》は物語を創り、己を物語の中で消費するのを是とする魔物だ。
即ち己を悪役として仕立て上げ、正義に誅される事を望むものであった。
《道化師》たるキシマ・ザルバはその物語として、邪教を選んだ。
つまりそれは、遠からず正義に誅される事になる。
勇者と呼ばれる、正義を執行するために生み出された者に処分されるために、
彼らの思想は、世界に悪とされる。