RECORD
Eno.637 ナルシテート・スラミガル・ビビの記録
決着
ラデュレ・ランバダは勇者である。
国に従わず、人に従わず、己にのみ従う日輪の女。
彼女が勇者に”成った”のは、対処の遅れた迷宮からあふれた魔物達が彼女の住んでいた町を破壊する最中、母を組み伏せる一体のゴブリンの頭をかち割った5歳の時だった。
。
故に彼女は迷わない。
間違いも、失敗も、それがこの世界に正しい変化をもたらすのだと確信している。
そのために何かに利用されないよう、自らの意志と腕を鍛え上げてきた。
無碍な言葉も、仕草も、ナルシテに良いようになればいい、との気持ちで迷いなく尾を踏んでいる。
実際のところナルシテが南バルカンへと居ることで人差別も迷宮信仰者も減少傾向にある。治安がよいのは、領主であるナルシテの行いと悪名高さ故だろう。
彼の心まで救いたいと思うのは当然なことだし、何かに意欲を見せたのならば多少融通を効かせてやりたい気持ちもある。
しかし面倒だが、大ぜいを動かすには大義と名分が必要なのだとラデュレも流石に学んでいた。彼から勝負を仕掛けてくれてよかった、と思うのは細やかな対話が苦手な彼女の一方的な安堵である。
ラデュレはこのユニーク上、大きな決断が迫られる事に関して国の認可を仰ぐ必要がある。
なんせやればやるだけ良い変化を与えるといったって、その道中の動乱は計算に含まれていないからだ。結果的によかった、というケースもかなり多い。
向こうから仕掛けてくれて、ラデュレがそれに対応したのなら、やむを得ず命を守るために行った、と思ってもらえる……と思う。ラデュレの希望的観測である。
少なくとも、ナルシテをこれで殺せばある程度は謝意も汲んでもらえるだろうし。
ラデュレが負けたとしても、”あの”ラデュレに一杯食わせた、というのは+評価になる。行いもラデュレが主導するなら簡単に物事は運ぶだろう。
どんな結果であってもナルシテの望みは叶えられるつもりがあった───。
なんて。
ラデュレは考えているのだがナルシテは怒りと焦りで割合とそれどころではなかった。
そもそもナルシテは竜騎士と言われつつも内容は魔術に配分を大きく振った魔法剣士である。
純粋な戦士であるラデュレと比べると技量は劣る。
一発当てなければ殺される。
ラデュレは手心を加えることもなくしっかり殺す気だし、思考パターンが常人とまったく違う彼女にとって殺人が普通に謝る事よりも簡単であると認識している以上うまく言いくるめられると思わない。
自身も相当頑固な部類だと思ってはいるが、ラデュレのそれはもはや頑固とかいう問題ではなかった。頭の中で勝手に決定事項にされているし、それが悪い方向に向かないのだからより悪化の一途をたどっている。

ナルシテの尻尾の先が飛ぶ。視界の一部が欠けたが、いくつも眼のあるナルシテからすれば重大な損害ではない。痛みが過去に触れられて怒りに染まる思考をクリアにされる。
一手とられた。
ここはフラウィウスではないから、一手ごとの治療などしてもらえないしそんな余裕はない。
侮りがあるのか、それともハンデのつもりか、ラデュレの踏み込みはやや甘かった。
そこを付け狙い、ビームを飛ばす。返された。二手。


振り下ろした刃がとれかかっていた片手を飛ばす。三手。
血が抜けて、赤すぎるそれは地面を汚した。そういえばイロくんに片手をあげたっけ、どっちだったかな……なんて他人事のような言葉がナルシテの頭をよぎった。
ラデュレの頬に血が跳ねた。
顔に刃の側面が当たって鼻血が垂れる。危なかった、刃を立てられていたら酷いスライスができていたろう。四手。
ここは闘技場じゃない。
サングラスはどこかに割れて飛んだ。観客の声は聞こえない。蹂躙のような暴力は五手では収まらない。
それでも。

ココ最近の、高速試合のおかげで、相手の意表を透かすというのは最近学んだ。
ナルシテの姿が消えた。
中段が透かされて、その奥、少し大きめの重たそうな手帳を傷つける。

位相がズレた先、置き土産のように置いた浮遊眼。
赤い瞳が、熱線を当てる。 五手。
手の甲を掠めたそれは、決してラデュレを殺す威力でもない。ただ当てるためだけの出力で、痛みもほとんどなかった。少しだけ若返った感じがするのは、恐らく彼のユニークのせいか。
しかし、負けは負けである。不利な条件をつけたのはラデュレだった。

剣を下げる。
思いのほか早く終わってしまったことにややさみしさはあれど、結果は結果だ。
むしろ裏をかかれたとみるべきかも。ちょっとバカにしすぎていた……というのは終わってからの本音だ。
確かに異世界ならナルシテが普段持ち歩く魔具以外のものがあることを考慮すべきだった。
もうすこし考えなさい、と5回も蘇生をしてくれた聖女の涙を思い返す。
もういいですよ、と声をかけて。数秒。返事がない。

返事がない。
ラデュレは落ちた尻尾の先と片腕を見た。
出血多量で死にかねない部位欠損である。

割れた水晶仕立ての手帳を拾い上げ、ラデュレは久々に途方に暮れた。
国に従わず、人に従わず、己にのみ従う日輪の女。
彼女が勇者に”成った”のは、対処の遅れた迷宮からあふれた魔物達が彼女の住んでいた町を破壊する最中、母を組み伏せる一体のゴブリンの頭をかち割った5歳の時だった。

【勇ましい者】
彼女の全ての行動はこの世界に限り良き変化を与える
故に彼女は迷わない。
間違いも、失敗も、それがこの世界に正しい変化をもたらすのだと確信している。
そのために何かに利用されないよう、自らの意志と腕を鍛え上げてきた。
無碍な言葉も、仕草も、ナルシテに良いようになればいい、との気持ちで迷いなく尾を踏んでいる。
実際のところナルシテが南バルカンへと居ることで人差別も迷宮信仰者も減少傾向にある。治安がよいのは、領主であるナルシテの行いと悪名高さ故だろう。
彼の心まで救いたいと思うのは当然なことだし、何かに意欲を見せたのならば多少融通を効かせてやりたい気持ちもある。
しかし面倒だが、大ぜいを動かすには大義と名分が必要なのだとラデュレも流石に学んでいた。彼から勝負を仕掛けてくれてよかった、と思うのは細やかな対話が苦手な彼女の一方的な安堵である。
ラデュレはこのユニーク上、大きな決断が迫られる事に関して国の認可を仰ぐ必要がある。
なんせやればやるだけ良い変化を与えるといったって、その道中の動乱は計算に含まれていないからだ。結果的によかった、というケースもかなり多い。
向こうから仕掛けてくれて、ラデュレがそれに対応したのなら、やむを得ず命を守るために行った、と思ってもらえる……と思う。ラデュレの希望的観測である。
少なくとも、ナルシテをこれで殺せばある程度は謝意も汲んでもらえるだろうし。
ラデュレが負けたとしても、”あの”ラデュレに一杯食わせた、というのは+評価になる。行いもラデュレが主導するなら簡単に物事は運ぶだろう。
どんな結果であってもナルシテの望みは叶えられるつもりがあった───。
なんて。
ラデュレは考えているのだがナルシテは怒りと焦りで割合とそれどころではなかった。
そもそもナルシテは竜騎士と言われつつも内容は魔術に配分を大きく振った魔法剣士である。
純粋な戦士であるラデュレと比べると技量は劣る。
一発当てなければ殺される。
ラデュレは手心を加えることもなくしっかり殺す気だし、思考パターンが常人とまったく違う彼女にとって殺人が普通に謝る事よりも簡単であると認識している以上うまく言いくるめられると思わない。
自身も相当頑固な部類だと思ってはいるが、ラデュレのそれはもはや頑固とかいう問題ではなかった。頭の中で勝手に決定事項にされているし、それが悪い方向に向かないのだからより悪化の一途をたどっている。

「ヴェールの纏」
ナルシテの尻尾の先が飛ぶ。視界の一部が欠けたが、いくつも眼のあるナルシテからすれば重大な損害ではない。痛みが過去に触れられて怒りに染まる思考をクリアにされる。
一手とられた。
ここはフラウィウスではないから、一手ごとの治療などしてもらえないしそんな余裕はない。
侮りがあるのか、それともハンデのつもりか、ラデュレの踏み込みはやや甘かった。
そこを付け狙い、ビームを飛ばす。返された。二手。


「騒乱の帳」
振り下ろした刃がとれかかっていた片手を飛ばす。三手。
血が抜けて、赤すぎるそれは地面を汚した。そういえばイロくんに片手をあげたっけ、どっちだったかな……なんて他人事のような言葉がナルシテの頭をよぎった。
ラデュレの頬に血が跳ねた。
顔に刃の側面が当たって鼻血が垂れる。危なかった、刃を立てられていたら酷いスライスができていたろう。四手。
ここは闘技場じゃない。
サングラスはどこかに割れて飛んだ。観客の声は聞こえない。蹂躙のような暴力は五手では収まらない。
それでも。

「私の帳───君よ清らかであれ」
ココ最近の、高速試合のおかげで、相手の意表を透かすというのは最近学んだ。
ナルシテの姿が消えた。
中段が透かされて、その奥、少し大きめの重たそうな手帳を傷つける。

「あ!」
位相がズレた先、置き土産のように置いた浮遊眼。
赤い瞳が、熱線を当てる。 五手。
手の甲を掠めたそれは、決してラデュレを殺す威力でもない。ただ当てるためだけの出力で、痛みもほとんどなかった。少しだけ若返った感じがするのは、恐らく彼のユニークのせいか。
しかし、負けは負けである。不利な条件をつけたのはラデュレだった。

「ああ~負けてしまいました。ナルシテ―ト様。なるほど、空間移動の魔具ですか?私もまだまだですね。おかしいな、その空間も切ったつもりだったんですけど、手ごたえがなくて……」
剣を下げる。
思いのほか早く終わってしまったことにややさみしさはあれど、結果は結果だ。
むしろ裏をかかれたとみるべきかも。ちょっとバカにしすぎていた……というのは終わってからの本音だ。
確かに異世界ならナルシテが普段持ち歩く魔具以外のものがあることを考慮すべきだった。
もうすこし考えなさい、と5回も蘇生をしてくれた聖女の涙を思い返す。
もういいですよ、と声をかけて。数秒。返事がない。

「ナルシテ―ト様?」
返事がない。
ラデュレは落ちた尻尾の先と片腕を見た。
出血多量で死にかねない部位欠損である。

「……え~と、どうしましょう」
割れた水晶仕立ての手帳を拾い上げ、ラデュレは久々に途方に暮れた。