RECORD

Eno.637 ナルシテート・スラミガル・ビビの記録

死者

夢の話だ。
ヴェールの向こう側から話すような、相手に聞こえているかもわからない話だ。


「ナルス」



「君って奴はさ、なんというかいい奴なんだけどとことん運がないよね。
ラデュレ嬢に会ったのもそうなんだけれど、物見遊山で飛び込んだ先で傷つけられまくってさ。元からこう……君の生い立ち的なところから運がなかった。
でもいっとくけど事態があれこれよくないの、君が無駄に頑固で意固地な所のせいも結構あると思うんだよな。
ナルスはどうしても我慢しいだから、気づくのが遅れるんだよ。大体の事が悪くなってるのに」


「そもねえ、なんだよあのユニーク。
性転換ビームというかコスプレビームというか!
手に入れちゃったのは仕方ないし、あの手はランダムだけど乱射するなよ!
そんなに美人の女に囲まれたいのか!?僕というものがありながら!?


「…」



「ごめん、言い過ぎた。マルチェラの事でナルスがこだわっちゃうのも分かるつもり。君にそういう性愛の色はないのは分かっているし……、そもそも僕はもういない」



「ナルス。ナルシテート。僕、僕たちさ。どこから間違ったのかな」



「とにかく恋とは罪悪です……、って誰が言ったんだっけ。
であるなれば僕は君に恋なんかしない方がよかったんだろうか。
そしたら、君は都会で、もっとしっかりした身分の、自分の身もちゃんと守れるような人と沿えたのかな。あるいは、こんなに傷つかず、一人で楽しくやれてたのかも。
今……、あの結末と、天秤にかけたらさ、釣り合ってるとはいえないよ。
罰を受けるならきっと身の丈を望みすぎた僕だったのかもしれない」



「君の腕の中で事切れ冷たく固まる体を置き去りにしたあの時。
ナルス、僕はきっと呪いをかけてしまった。
忘れないでほしくて、ずっと引きずってほしくて、酷い事を。
ずっと君に取り憑いて……」


「どれだけ君が泣いても喚いても叫んでも、僕は透き通るばかりで。
今ここにいるのだって、結局は本体じゃないんだ。今際の夢物語。おとぎ話。
これが、君に聞こえているのかだって分からない」


「だから、こんなのの前で立ち止まらず返せない踵の行き先をもう決めるべきだ」



朧げな輪郭が夢魔の力を借りてはっきりと見える。
鮮やかな髪色は年月を得て森の色になり、肌は白く、口元の黒子が愛らしい人だった。
あんなに覚えていたのに、年月は何度も記憶のアルバムを撫でて色あせさせていく。
きっと正しく話す彼女の顔を見れるのは、それで最期だった。
死に顔が塗り替えられる。


「離婚しよう。ナルス。もういいよ、大事にしなくていい。忘れていい」



「戻れない日々を手放せないまま君が腐っていくくらいなら。
このまま立ち止まって痛みに呻かれ続けるくらいなら。
僕の事も、カルラの事も、マルチェラの事も忘れていい。
前を向いて」



「こぼれたミルクはもう戻らないんだ」



「僕の恋も君の鼓動も使い切ってしまうくらいなら」


「もう囚われないで」


「ただ、前を向いて」



「ただ、前を向いて……」



「…」



最後の枷ジゼルのユニークが解除されました。