RECORD
Eno.232 シャルティオ&キィランの記録
「…………はい、母上。
このフェンドリーゼ、確かに」
「任せたわよ、フェンドリーゼ。
自由に動けるおまえにしか、頼めないことなの」
母親からの密命を受け、
フェンドリーゼは自室に戻った。
キィランもその話を聞くことを、許された。
「……さてフェン様。
これから、忙しくなりますねぇ」
「俺たちの冒険はここからだぜ!
……まぁ、でも」
フェンドリーゼは、少し複雑な顔をした。
「……ねぇ、キィル。
君はさ、俺の命令なら、どんなことでも聞いてくれる?」
「何を今更。フェン様に救われたこの命、
フェン様の命令は、絶対に御座います」
「だよねぇ……。君だけは俺に本気で忠実でいてくれる。
こんな身勝手な俺にもついてきてくれる。
……ありがとう、って言っておくよ」
「……フェン様?」
首を傾げる従者に、風王子は言うのだ。
「俺はいつか、キィルの、従者としての任を解く。
勘違いしないで、キィルのことは信頼してる。
でも、だからこそ、俺は君の望まないことをする。
……君が俺に仕えたいことは、承知の上で」
色違いの瞳は、真剣だ。
「俺はこの密命を利用して、好き勝手やるつもりだよ。
そして、だぁれも望まない結末を導くのさ。
……地獄への道だ、そして最後に俺は君の手を離すけど。
それでもキィル、途中までは、ついてきてくれる?」
ツートーンの瞳が、主人のオッドアイを見つめ返した。
「──勿論ですとも、我があるじ」
いかなる地獄へでもお供しますと、
忠実なる従者の声が、淡々と。
「……ありがとう。
俺は俺の気紛れで君を助けただけなのにさ、
君を見捨てることだって出来たのにさ。
それでも君は、こんなにも、俺を慕ってくれるんだね」
「……私には、俺には、それで充分だったんですよ。
たといそれが風の気紛れであっても、この私を、
破術師の私を助けて下さったのは、フェン様なのですから」
強い信頼で結ばれた主従。
けれど最後の最後には、主人が従者の手を離す。
「──して、フェン様。私は、何をすれば?」
「ティナとティカをフラウィウスへ出した。
ひとまずは彼女たちの代わりに事務仕事の一部をよろしく。
密命のこともあるんだけれど、今は時期があまり良くない。
俺はのらりくらりかわしながら、機を見て城を出るつもり」
「かしこまりました」
「キィルは俺が城を出てもついてこないで。
キィルはシャルの側にいてあげて。
……シャルはこれからきっと、酷く傷付くから。
あの子が信頼してるのは、ここには俺と君しかいないからさ」
「──御意」
魔導王国の裏、何かが動き出そうとしていた。
◇
誰もが望まない結末を、俺はこれから紡ぎ出そうとしている。
シャルもキィルもそれを望むまい。
母さんも、兄上も、ティナもティカも、勿論、俺も。
馬鹿なことをやろうとしている自覚はあった。
でもさ、それでも、それこそが俺の見た“最善”だから。
泥でも何でも被ってやろう、俺はこれから悪役になる。
“信じて”なんて言ったくせ、きっと俺はあの子を泣かすんだ。
「……『キィルやシャルを困らせるんじゃねーぞ』だっけ」
リオの言葉を、思い返していた。
「あははははっ!
困らせるどころか、俺はきっとシャルを泣かせるけど!
シャルの頬には、消えないぐらいの涙の傷痕が出来るのかもね!
残念、俺は裏切り者だよ! あははははっ!!!!!」
それでも、青年は笑っている。
そしてそれは、心の欠けた己にしか出来ないことなのだ。
誰かを傷つけることに躊躇がない、人の痛みが分からない。
だからこそ何処までも身勝手で、独善的な風王子。
自覚はすれども、欠けているからこそ出来ることはあって。
「……俺は次はフラウィウスへは戻らないかもなぁ。
シャルから絶対に恨まれるだろうし、キィルも俺を許すかな!
俺は俺の居場所を自分で奪う訳だけれど、
まぁ、国の外にも居場所ぐらい出来るだろうさ!」
瞑目、己の歩む道を想った。
大切を傷付け、決定的な訣別をし、
されどその果てにあるものこそが、望んでいた未来。
「……だからこそ、平和である今を大事にしなきゃ。
俺があの子の誕生日を祝えるのは、
今年で最後になるんだろうねぇ……」
素敵なものにしよう。
君に贈る、最後のバースデー。
俺は君を泣かせて、とんでもないものを背負わせるから。
けれどその前に、まだ、もっと、仲良しで居させておくれ。
「……そうやって自分の居場所を自分で破壊してしまったら、
その後で俺はようやく、
“寂しい”の感情が分かるようになるのかな」
動乱の中で奪われた感情を取り戻したなら、
その時、自分は何を想うのか。
魔導王国に、そう遠くない未来に風が吹く。
それは全てを引っ掻き回し、
めちゃくちゃにする災厄の嵐だ。
けれどそんな嵐の果てに、咲く花もあると信じている。
嵐がなければ咲かない花があることを、知っている。
「…………」
風王子は、静かに待つ。
嵐を訪れさせる、その時を──
後日譚02 密命の風王子
「…………はい、母上。
このフェンドリーゼ、確かに」
「任せたわよ、フェンドリーゼ。
自由に動けるおまえにしか、頼めないことなの」
母親からの密命を受け、
フェンドリーゼは自室に戻った。
キィランもその話を聞くことを、許された。
「……さてフェン様。
これから、忙しくなりますねぇ」
「俺たちの冒険はここからだぜ!
……まぁ、でも」
フェンドリーゼは、少し複雑な顔をした。
「……ねぇ、キィル。
君はさ、俺の命令なら、どんなことでも聞いてくれる?」
「何を今更。フェン様に救われたこの命、
フェン様の命令は、絶対に御座います」
「だよねぇ……。君だけは俺に本気で忠実でいてくれる。
こんな身勝手な俺にもついてきてくれる。
……ありがとう、って言っておくよ」
「……フェン様?」
首を傾げる従者に、風王子は言うのだ。
「俺はいつか、キィルの、従者としての任を解く。
勘違いしないで、キィルのことは信頼してる。
でも、だからこそ、俺は君の望まないことをする。
……君が俺に仕えたいことは、承知の上で」
色違いの瞳は、真剣だ。
「俺はこの密命を利用して、好き勝手やるつもりだよ。
そして、だぁれも望まない結末を導くのさ。
……地獄への道だ、そして最後に俺は君の手を離すけど。
それでもキィル、途中までは、ついてきてくれる?」
ツートーンの瞳が、主人のオッドアイを見つめ返した。
「──勿論ですとも、我があるじ」
いかなる地獄へでもお供しますと、
忠実なる従者の声が、淡々と。
「……ありがとう。
俺は俺の気紛れで君を助けただけなのにさ、
君を見捨てることだって出来たのにさ。
それでも君は、こんなにも、俺を慕ってくれるんだね」
「……私には、俺には、それで充分だったんですよ。
たといそれが風の気紛れであっても、この私を、
破術師の私を助けて下さったのは、フェン様なのですから」
強い信頼で結ばれた主従。
けれど最後の最後には、主人が従者の手を離す。
「──して、フェン様。私は、何をすれば?」
「ティナとティカをフラウィウスへ出した。
ひとまずは彼女たちの代わりに事務仕事の一部をよろしく。
密命のこともあるんだけれど、今は時期があまり良くない。
俺はのらりくらりかわしながら、機を見て城を出るつもり」
「かしこまりました」
「キィルは俺が城を出てもついてこないで。
キィルはシャルの側にいてあげて。
……シャルはこれからきっと、酷く傷付くから。
あの子が信頼してるのは、ここには俺と君しかいないからさ」
「──御意」
魔導王国の裏、何かが動き出そうとしていた。
◇
誰もが望まない結末を、俺はこれから紡ぎ出そうとしている。
シャルもキィルもそれを望むまい。
母さんも、兄上も、ティナもティカも、勿論、俺も。
馬鹿なことをやろうとしている自覚はあった。
でもさ、それでも、それこそが俺の見た“最善”だから。
泥でも何でも被ってやろう、俺はこれから悪役になる。
“信じて”なんて言ったくせ、きっと俺はあの子を泣かすんだ。
「……『キィルやシャルを困らせるんじゃねーぞ』だっけ」
リオの言葉を、思い返していた。
「あははははっ!
困らせるどころか、俺はきっとシャルを泣かせるけど!
シャルの頬には、消えないぐらいの涙の傷痕が出来るのかもね!
残念、俺は裏切り者だよ! あははははっ!!!!!」
それでも、青年は笑っている。
そしてそれは、心の欠けた己にしか出来ないことなのだ。
誰かを傷つけることに躊躇がない、人の痛みが分からない。
だからこそ何処までも身勝手で、独善的な風王子。
自覚はすれども、欠けているからこそ出来ることはあって。
「……俺は次はフラウィウスへは戻らないかもなぁ。
シャルから絶対に恨まれるだろうし、キィルも俺を許すかな!
俺は俺の居場所を自分で奪う訳だけれど、
まぁ、国の外にも居場所ぐらい出来るだろうさ!」
瞑目、己の歩む道を想った。
大切を傷付け、決定的な訣別をし、
されどその果てにあるものこそが、望んでいた未来。
「……だからこそ、平和である今を大事にしなきゃ。
俺があの子の誕生日を祝えるのは、
今年で最後になるんだろうねぇ……」
素敵なものにしよう。
君に贈る、最後のバースデー。
俺は君を泣かせて、とんでもないものを背負わせるから。
けれどその前に、まだ、もっと、仲良しで居させておくれ。
「……そうやって自分の居場所を自分で破壊してしまったら、
その後で俺はようやく、
“寂しい”の感情が分かるようになるのかな」
動乱の中で奪われた感情を取り戻したなら、
その時、自分は何を想うのか。
魔導王国に、そう遠くない未来に風が吹く。
それは全てを引っ掻き回し、
めちゃくちゃにする災厄の嵐だ。
けれどそんな嵐の果てに、咲く花もあると信じている。
嵐がなければ咲かない花があることを、知っている。
「…………」
風王子は、静かに待つ。
嵐を訪れさせる、その時を──