RECORD
傭兵
何も持たない自分が唯一知っているもの。
「アルアのおっちゃーん!どこだー?
俺アンタに話があるんだけどー」

「……どちらさんでしたっけねェ…?」
「ラガーって言うぞ」

やってきた少年と、闘いに関して。
なんやかんや、話をしていた気がするが。 要するに。

「…………アナタの知りたい事って
私のように、楽しく人を殺す方法 って事で、合ってます?」
「んー、うん」
無邪気な、返事。

「そう…そうだ。私とひとつ、真剣勝負、殺りあってみませんか」

「ほら…… 殺しの…殺し楽しい派として…」
詭弁を弄す。

「師弟対決?、みたいなのって、こう、為になったりするじゃないですか」
「うん、いいよ」
「アンタは知らないこと教えてくれたしさ、
お礼しなきゃって思ってたんだよね。ちょうどよかった。」
「俺、取り柄とかあんまり無いけど
殺し合いだけはちゃんと出来るから。
実際に楽しく人を殺すところ、近くで見せてほしいな」

「…………ハハッ!」

「アナタ、多分、才能ありますよ」
何の才能? 化物になる才能?
それを、望んでいた。同じ場所に堕ちて来いと。

「私が剣闘士でなくて…………、
例えば酒場の存続を脅かすような人間でしたら、
より情熱的に、やっていただけるって事ですかねェ…」
「そんなことになったら多くの人がアンタを狙いにきちゃうかもしれないね?
肝心の俺の方は脅かされても、
『アンタはそんな人なんだなあ』って思うだけかもしれないし」

「……うゥん… アナタ、分かりにくいですね。
急所、みたいなのを感じられないなぁ」

「まァ、それだから、…弟子なんて呼んでるわですが」
根本的に壊れている場所が同じ。
もっともっと近しくなれば、きっと。
今よりもっと悦しめる。そんな確信があって。
自分の持っているものを彼に教えた。
殺し合った。
それが目覚めていく様は、最高に、愉しくて。


「あははァ…… いい目だァ…」

「すごい。すごい、うれしいよ…
もっと、ほら、おいで。好きにするといい。
わざと長引かせる方法とか、苦しくさせるやり方とか
思い切り、ぐちゃぐちゃにする快感とか」
自分に似た瞳が、自分を映している。
どんどん近付いて、重なり合って。
自分がその才能を見出して、自分がここまで連れてきた。
自分に快楽を与えてくれる存在に、育ってくれた。
最高だなあ。
かわいい良い子。何度も死闘して、触れ合った、大切な。
***
結局、彼がどうして自分あんなに拘るのかは分からないまま。
「……もう、会えなくなる前に。
アルアに、
巻き戻しにも奪われない傷、付けて欲しいなって、思……」

「……すみません、ちぃと、よく聞こえませんでしたね。
もう一度、ちゃんと聞かせてください。
こっち、私の方を、ちゃんと見て」

「だれに、どうしてほしいって?」

欲に任せて躊躇なく傷つけた後で、最後まで応えられずに投げ出して。
あれは最低の夜だった。
「本当に殺されたかった。
アルアと一緒に気持ちよくなりたかった」

「30年早ェよ、馬鹿…」
近づいて、重なっていく。
酒と、煙草と、快楽と、それから──
死に 焦がれているんだよ
私に、似ている、可愛いかわいい

「おまえは、間違いなく、
可愛い私の弟子だよ。ラガー」
どうして私だった。どうしてそれを持って行った。その幸福はそれ以外のすべての邪魔をする、捨てさせる、最高に甘い毒薬だ。
もしあなたを埋めるものが、何か別の、……まっとうな。ものだったなら。どうしてもそう、思ってしまう。

「それだとしても、あなたが先に進む……救いに?
なっているとするならば、嬉しいです」

「どうでもいい事になんて、もう、するものですか。絶対に」
教えられるものは、殺し方。それだけ。
さぁ、最後にもう一度。
「……さ、始めよっか。これが最後だ」

「一緒にどこまでも堕ちて、溺れて、沈んでいって。
これは二人で見る最後の夢。
アンタと一緒なら怖くないし、
信じたいものがちゃんと俺たちを引き上げてくれる。そうでしょ?
さあ、アルア・フィフス!奪い合おう!」

「アナタの求めるものが私なのだとしたら…
勝とうが、負けようが……
忘れられない、最高に気持ちいい思い出に、しましょうねェ」
刃が彼をとらえた。
ようやく最後に応えてあげられる。

「一緒に……」

「なァ、ラガー、いっしょに、死のうか」
巻き戻って、無かったことになってしまう無意味な事を。

「いっしょに、逝こう、ラガー」
「いい、の?」
「……う、ん。いきたい、アルアといきたい」
「すきだよ」

「このまま時間が止まればいいのにね」
どこまでも共に、行けたなら、
私もあなたの幸せに、なれたのかもしれないけれど。
だけどあなたには未来があるからね。
30年後くらいに、おいで。
***
***
***

「まァ、話は存分にしましたのでね…
良き前途を」
「……どーも。師匠も良い道行になりますように」

「俺は皆が楽しく生きることを願っているけど」
「アンタだけは、アルアだけは。
しあわせな終わりを迎えることを、願っているよ」

驚いたように目を開き。バツが悪そうに目を逸らし。
揺れる瞳であなたを見た。

「……ありがとう」

「さよなら」
もう二度と会うことは無いけれど。
あなたが、あなたを、愛してくれる人に出会えますように。
願っているよ。

「応えられなくてごめんな」
アルア・フィフスは愛弟子を見送った。
これがエピソードのうちのひとつ。