RECORD
Eno.44 ブルーバードの記録
夢の終わり
”王子様”の手を離し崖から落ちたあの瞬間から、私の意識は既に無く
そこからの『記憶』は……
脳が作り出した美しい夢、幻覚。
普通なら、優しい幻覚は良い旅立ちのための区切りになるのだろう。
けれど、私はそれが作り物の嘘で……真実はそうではなかったと、自覚する必要があった。
誰も私を呼ばなかった。
……そのような余裕はあの戦況ではあるはずもない。一瞬にして暗部に蹂躙されただろう。
崖の下まで追いかけてきてくれた王子様はいなかった。
……最期の瞬間彼の体は崖の上にあっただろう。一太刀すら浴びせられず斃れた彼の躯が。
同じように、彼もまた幻覚を見た。
『致命傷を負うも追手を全員倒し、それを報告するため姫様のいる崖下に落ちる幻覚』を。
転生した彼が口を閉ざしたのは、最期の記憶が私と彼とで食い違っていたからだ。
お互いがお互い、最期に自分に都合の良い幻覚を見ていた。
私は、想い人が自分の所まで来て最期を共にしてくれた幻覚
彼は、追手を全て倒せたことを最期に姫様に報告する幻覚
私より先に絶命していた彼は、私の正体にも気づいていたのだろう。
転生した後、先に私の話を聞いた彼は知ってしまった。
彼が持つ最期の記憶が幻覚であること、私の記憶も幻覚であること、私と彼の進度が異なっていること。
彼は、知っていたから口を閉ざした。
その上で、彼はかりそめの『幸せ』が一秒でも長く続くことを望んだ。
……そういうことにしておこう。
ともかく天は王子と姫を引き離し、姫を『運命』へと連れ去った。
けれど……王子様とお姫様の話はハッピーエンドなのだろう。
転生した二人は再び出会い、『末永く幸せに暮らしましたとさ』。
崖から飛びもしなかった彼は高所恐怖症だった。
幻覚も真実の一部なのだ。
夢が告げる。
死期が近い者と死者にだけ見える、左手の紋
それは、輪廻の走者の証。
何度も何度も転生を繰り返し、学びを修め、転生が終わりに近づいた者に宿る徴。
ニルヴァーナに至る最終試練の受験票。
苦しみと涙の果てに光り輝き、宿した者を『運命』の相手へと導く。
そうして、運命の相手との出会いを合図に、最も過酷な最終試練が始まる。
……今の私はきっと、その試練に合格しているのだろう。
苦しみも涙も幻覚も全ては糧となり、一つに繋がっている。
誰かを大切に想った気持ちは真実で、運命の相手でなければ幸せになれないということもない。
実際姫様は、幸せだった。
沢山の方々に真心を頂き、愛することを学んだ。
王子様もきっといつか、運命に導かれ最終試練を共にする相手とめぐり逢うのだろう。
試練の突破者は、死後は天使になるとも、精霊になるとも、神に近いものになるとも。
願わくば、最後は……二人で骨壺を並べて、ゆっくり眠りたい。
それが、今の私が願う
”幸せ”だ。
そこからの『記憶』は……
脳が作り出した美しい夢、幻覚。
普通なら、優しい幻覚は良い旅立ちのための区切りになるのだろう。
けれど、私はそれが作り物の嘘で……真実はそうではなかったと、自覚する必要があった。
誰も私を呼ばなかった。
……そのような余裕はあの戦況ではあるはずもない。一瞬にして暗部に蹂躙されただろう。
崖の下まで追いかけてきてくれた王子様はいなかった。
……最期の瞬間彼の体は崖の上にあっただろう。一太刀すら浴びせられず斃れた彼の躯が。
同じように、彼もまた幻覚を見た。
『致命傷を負うも追手を全員倒し、それを報告するため姫様のいる崖下に落ちる幻覚』を。
転生した彼が口を閉ざしたのは、最期の記憶が私と彼とで食い違っていたからだ。
お互いがお互い、最期に自分に都合の良い幻覚を見ていた。
私は、想い人が自分の所まで来て最期を共にしてくれた幻覚
彼は、追手を全て倒せたことを最期に姫様に報告する幻覚
私より先に絶命していた彼は、私の正体にも気づいていたのだろう。
転生した後、先に私の話を聞いた彼は知ってしまった。
彼が持つ最期の記憶が幻覚であること、私の記憶も幻覚であること、私と彼の進度が異なっていること。
彼は、知っていたから口を閉ざした。
その上で、彼はかりそめの『幸せ』が一秒でも長く続くことを望んだ。
……そういうことにしておこう。
ともかく天は王子と姫を引き離し、姫を『運命』へと連れ去った。
けれど……王子様とお姫様の話はハッピーエンドなのだろう。
転生した二人は再び出会い、『末永く幸せに暮らしましたとさ』。
崖から飛びもしなかった彼は高所恐怖症だった。
幻覚も真実の一部なのだ。
夢が告げる。
死期が近い者と死者にだけ見える、左手の紋
それは、輪廻の走者の証。
何度も何度も転生を繰り返し、学びを修め、転生が終わりに近づいた者に宿る徴。
ニルヴァーナに至る最終試練の受験票。
苦しみと涙の果てに光り輝き、宿した者を『運命』の相手へと導く。
そうして、運命の相手との出会いを合図に、最も過酷な最終試練が始まる。
……今の私はきっと、その試練に合格しているのだろう。
苦しみも涙も幻覚も全ては糧となり、一つに繋がっている。
誰かを大切に想った気持ちは真実で、運命の相手でなければ幸せになれないということもない。
実際姫様は、幸せだった。
沢山の方々に真心を頂き、愛することを学んだ。
王子様もきっといつか、運命に導かれ最終試練を共にする相手とめぐり逢うのだろう。
試練の突破者は、死後は天使になるとも、精霊になるとも、神に近いものになるとも。
願わくば、最後は……二人で骨壺を並べて、ゆっくり眠りたい。
それが、今の私が願う
”幸せ”だ。