RECORD

Eno.105 マリン・ペリドットの記録

『カンラン石の少女』Ⅱ


 「お前は私に飼われてる。分かるな?
  だからお前は私のものだ。それも分かるな?
   よって口答えや拒否は許さん。お前は常に笑い、従え―――」



不死様に連れられて住処へと通された時。はじめにそう言われた。
仮にも私が女の子だから、暗い顔をするのをよしとしなかったんだと思う。
でもその時の私は思考を働かせれば、一呼吸でも遅れれば彼女の爪で裂かれて
喰われてしまうと思って、何度も何度も頷いた。


「よろしい」

私に手が伸びる。思わず、縮こまって身を小さくしたけれど。
その手は頭に伸びて、優しく私の橙の髪を撫でてくれた。
そうして、孤児の時に着ていた服を新調してくれた……とまでは流石にいかなかった。


「お前がまずすべき事は――私に血を提供する、これは大前提――だから、
 そのボロボロの洗っていない服を何とかするように。
 言っておくが仕立屋を使えると思うなよ、不死者向けの仕立屋はあるが、
 その血袋用の仕立屋まで探すのは面倒極まりない……言っている意味は分かるな?
 それと、原則として私が許可しない限りは外出を禁じる」

不死様は私の衣服は自分自身でなんとかしろ、と仰せるのだから。
孤児として薄汚い廃材の城で衣食住をするよりはマシだろう、お前は貰われたんだから。
そう後ろ指を指しているような面倒を見た孤児達と。
前から『お前の事はお前でなんとかしろ』と前から指を指す不死様と。
その時、自分が置かれてしまった立場をようやく理解して、鳥籠に収まったのだと。

私は理解して、それからは笑顔でいること、不死様が仰せる事を何でも熟せるように
寝る間を惜しんで勉学に励み、実践する日々が短いながら続く事になった。

まずは裁縫。ちびっこ相手に服を補修する事はあったからまだ良かったけれど、
自分の服を仕立て直すのは流石に難しかった。 採寸の概念である。
自分の着ていた服を基に瓜二つの――今まで着る事になる――服を仕立てて漸く、
私は『お前』という呼び方以外で不死様に呼ばれるようになった。


「おい」

「……はい、なんでしょうか不死様?」

「名前。名前聞くの忘れてた。いつまでも『お前』呼びじゃ飼うのも苦労する」

「私は、マリン・ペリドットです、不死様」

「……アクアマリンとペリドットか。まあ、後者はお前の目を見れば納得する。
 宝石の名前をつける親が居るなんて、さぞ酔狂な奴らだったんだろう?
 ――――興を削ぐような事を言ってみろ、棄ててやるからな」

その不死様は気性が荒く、背も高い女性の御方であった。
それでいて不死様は人を惹き付ける美貌を持ち合わせるのだから、多少の
乱暴な言葉遣いや態度、気にしていなかった……はずだった。
射貫くような紅い目、夜の帳に溶け込みそうな暗い蒼の髪、そして何よりも
豪奢な紫の礼服と赤いスカートに、実用性を重視したロングブーツ。
……見た目と実用性、動き易さを考えた服装は、不死者が粗暴なだけではなく
頭の働くものだと、私が気付くのにはそう遠くなかった――――。